空中階でも坪月商37万円を達成! 自由が丘『おゆげ』が凝らす3つの工夫

来店者の9割がオーダーする「林SPF豚(ポーク)の焼売」(400円)は、仕上げに黒こしょうを削る。1個70g、調理時間は15分。待つ間にお通し(席料550円)をつまんでもらう。せいろのサイズは1種類。2段の蒸し器で、1段あたり9つを同時に調理できる。サラダ代わりに「春野菜のセイロ蒸し」(700円)を頼んでいるゲストも多かった
ゲストと話す時間のために「機能性」を図る
3つ目の工夫は、ロジカルな「機能性」だろう。キッチン周りやカウンター周りなど、なるべくモノを少なくしてゴチャゴチャさせない工夫は、美しさの演出もあるが「整理や作業の時間を減らしてスムーズに店を回す」という目的がある。
現在は1〜2人のスタッフを入れているものの、開業時はワンオペで営業するケースも考えていた山下さん。せいろ蒸しと土鍋ごはんを選んだのも、ある程度は「タイマーで調理を任せられる」という側面がある。

ネーミングセンスに思わずうなる、蟹の身と蟹味噌を和えた冷菜「かにのなめろう」(800円)。提供前から小皿に取り分けることで丁寧さを演出すると同時に、洗い物の数も減らせる(写真は1人用に分けられた後のサイズ)
しっかりと仕込みをするメニューを増やして営業中に手をかける時間を減らすなど、オペレーションの改善にも余念がない。
「開業時は仕込んだ食材がロスになるのを恐れ、オーダーが入ってから調理できる天ぷらなどを提供していました。現在は忙しくなったので、天ぷらと違って鍋から目を離せる春巻をメニューにするなど、仕込みの比重を上げています」
営業中の手間を減らすことへ神経を削る理由には、山下さんの原体験がある。最初に飛び込んだ飲食の世界は、業界最大手の居酒屋チェーンだった。良い仲間に囲まれて楽しい職場だったものの、ホールとキッチンが完全に分かれた環境に物足りなさを感じたという。
「お店の評価は、料理や内外装で決まるものかもしれません。でも、お客さまに『お店のファンになっていただく』ためには、スタッフが一生懸命にキビキビ動いている姿も重要だと思うんです。だからクローズキッチンではなく、オープンキッチンで働きたいと考えました。僕はやっぱりお客さまとコミュニケーションを取るのが好きなので、できるだけたくさん話がしたい。その余裕を持つための工夫を徹底的に考えています」
修業時代、洗い物をしている間はゲストに背を向けていて「会話に入れないのが寂しかった」と山下さん。『おゆげ』では洗い場を対面にして、どんな作業をしていても客席とコミュニケーションが取りやすいように工夫している。

開業当初は27席をワンオペで回すことも覚悟し、動線を細かく設計した。こだわったのは洗い場の配置。シンクを壁側でなく、客席すべてが見渡せるように据えた。洗い物をしながらでもオーダーを逃さず、ゲストとのコミュニケーションもスムーズに取れる
客単価6,500円のうち、フードとドリンクの比重は「6対4もしくは7対3」ほどで、フードの売上が高い。客単価全体を押し上げるのは、〆の一品である土鍋ごはんだ。
銘々皿で提供されるため、すっきりしたテーブルはスペースが広い。そこに大きな土鍋が運ばれてくる対比にはインパクトがある。ゲストがひと通り写真を撮り終わった後は、山下さんの手で素早く具材とごはんが混ぜられ、会話しながら茶碗によそわれる。ライブ感の演出とともに、ゲストと自然なコミュニケーションが取れる仕掛けだ。

〆の看板メニュー、土鍋ごはん。「鮭といくらの土鍋」(2,680円)は、写真を撮るお客さまが多いと山下さん。洗い米の状態で準備した「ななつぼし」1合を出汁で炊く。その間にフライパンで鮭の切り身をポワレ。万能ねぎ、いくら、白ごまをあしらい、蓋をして1分ほど蒸らし提供。開けた瞬間に広がる湯気と香りを楽しんでもらう
しゃもじでごはんを切る手つきも軽やかな山下さん。オーダーを受けるごとに「オッケーイ!」と手を叩き、次の調理へ向かっていく。
「ゆくゆくは、自分の店を目的に自由が丘へ来る人たちを増やして、この街とL字が丘に恩返しがしたいです」
開業半年の空中階で繁盛している理由は、「おゆげ」の漂う美味しそうな料理だけではなかった。店主の人柄と、みなぎるやる気にも惹かれて、今も常連は増え続けている。
『おゆげ』
住所/東京都目黒区自由が丘2-14-20 第七千陽ビル2F
電話番号/03-6421-1119
営業時間/月〜土17:30〜23:30(L.O. 22:30)、日・祝16:00〜23:00(L.O. 22:00)
定休日/不定休
席数/27(うちカウンター9)
https://www.instagram.com/oyuge_jiyugaoka/
