池尻大橋『OMA』が描く“居酒屋の新たな世界観”。デザイン力で「会話」生まれる酒場に
「会話が自然と生まれる店」をデザインによってつくりあげる
また、内装のシンボルアイテムとしての役割を担っているのが大ぶりな2台のヴィンテージスピーカーだ。カウンター上に季節の樹木を飾りつけられている一方、フロアの壁や天井、床はコンクリート剥き出し。ボタニカルと無機質を融合した空間に仕上げられているが、『OMA』の店舗設計におけるポイントはこうしたスタイリッシュな内装に加え、機能性をしっかりと備えていることだ。
たとえば、カウンターの高さは1100mmだが、この高さは座高700mmの椅子に座るとお客と厨房内に立つスタッフの視線が同じになり、なおかつ椅子を取り除いてスタンディング用カウンターとして利用する際にも使いやすい設定。また、3種類の一枚板はそれぞれに奥行きが異なるが、「奥行き500mmと最も狭いカウンターはお客さまとキッチンスタッフが会話をしやすい距離設定」(榊原氏)になっているという。
ヴィンテージスピーカーの設置位置も緻密に計算されている。「音がお客さまの頭の上を抜けるようにするため、やや高めの位置にスピーカーを設置しています。もし、スピーカーの設置場所が30cm低かったら、BGMが邪魔になり、お客さまは大声で話さなければならなくなるでしょう」と榊原氏は説明する。
石黒氏も『OMA』の店舗デザインのポイントを次のように説明する。
「『コミュニケーションデザイン』という考え方があります。人と人、企業と顧客とのコミュニケーションをデザインすることをいいますが、『OMA』のデザインで重視したのがまさにこの点です。飲食店は食事をする場所であり、居酒屋はお客さま同士、お客さまとスタッフが会話を楽しむ場所。スタイリッシュな空間をつくることが目的ではなく、会話が自然と生まれる空間をつくるため、『デザインしすぎないこと』を意識しました」
定番は外さない。池尻っぽいアレンジで独自性を打ち出す
フードについては昼と夜で商品スタイルががらりと変わり、昼は名物メニューの「貝汁定食」1,000円をはじめ、生姜焼き、アジフライなどをおかずにした定食メニューを1,000~1,480円の価格帯で4品を揃えている。
一方、夜は「肴」「おでん」「サラダ」「揚」「〆」のカテゴリ別に680~780円を中心価格帯として約30品をラインアップしている。
売れ筋は「黒毛和牛のかいわれ肉巻き」1,280円や「お出汁で炊いた里芋の唐揚げ」780円。パスタにフィットチーネを用いた「大人の明太スパサラ」750円などひと捻りした料理がメニューに並ぶが、石黒氏はフードコンセプトについて「和食を下地にしながら定番のつまみを池尻っぽく仕上げた料理」と説明する。
「池尻っぽさというのを言葉で説明するのは難しいのですが、大人っぽく、遊び心があり、でも、尖りすぎていない料理といったところでしょうか。同じ料理でも、三軒茶屋であればいかにも居酒屋らしい料理、自由が丘であれば女性好みの料理、渋谷であれば見映えがする尖った料理にアレンジすると思います」
また、「エントランスを入った瞬間に出汁の風味が香り、湯気の温かみを感じられるようにしたい」(石黒氏)という考えから、メニューの柱としておでんを投入。おでんメニューは13種の種から好みのものを選べる「3種盛り」800円、「5種盛り」1,300円で構成されているが、6月以降はこれを串焼きに切り替える予定だという。
