三鷹『万歳パンダ』、28歳女将の笑顔に惹かれ令和男女が“昭和”満喫
昭和テイストに浸れる居酒屋『万歳パンダ』に人の流れが途切れない。10席のカウンターと6人入れば満席の小上がりという小規模な店舗、28歳の和服の女将さんの笑顔を見るために20代から50代まで多様な人々が集う。
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杉玉がお出迎え
歴史を感じさせる古い木造建築、店先には醸造安全祈願の杉玉が飾られる『万歳パンダ』は、外観からも昭和の雰囲気を漂わせている。店内はカウンターと奥の小上がり、懐かしい映画のワンシーンが今にも始まりそうな佇まい。カウンターの中に和服に割烹着の女将(おかみ)さんがいれば完璧、と思ったら本当に登場するのがこの店の最大の魅力である。
川ノ口由樹さん28歳、2022年9月からこの店を任されている三代目の女将さん。開店前におばんざいを作り、その日のメニューを作成、仕入れなどの電話やメールに対応して最後に和服に着替えてお客さんを出迎える準備を完了する。
昭和のテレビや映画にはこんな居酒屋のシーンは頻出する。赤ちょうちんのぶら下がったカウンターで主人公の男性が仕事の不満を口にして日本酒を立て続けに呷(あお)る。聞き役に徹した女将さんが最後に「昔から『男は敷居を跨げば七人の敵あり』って言いますものねぇ。今日は飲んで忘れてちょうだいな。私も一杯いただこうかしら」と、今ではほとんど死語の“昭和言葉”で慰める。実際にそのようなシーンがあったか定かではないが、その種のドラマや映画を見て育った筆者のような昭和の子供の多くは“居酒屋は大人になってから行く、大人が好きな場所”、“将来、こんな感じで酒を飲み、女将さんに慰められたい”などと感じたに違いない。
ザ・ドリフターズの「ドリフのズンドコ節」(昭和44年発売)で荒井注さんが歌うパートが当時の居酒屋の雰囲気をよく示している。
「飲んでくだまき かみついて つぶれた俺の耳元で 『体に毒よ』とささやいた 飲み屋の娘がいじらしい」(作詞:なかにし礼、作曲者:不詳)
そうしたノスタルジックな思いを現実化してくれるのが、JR中央線沿線に8店舗を展開する株式会社オフィスPandaが運営する『万歳パンダ』である。2015年7月のオープン時から和服の女将さんが店を切り盛りするコンセプトで人気を集めてきた。「和服を着てお店をやっていると『珍しいねえ』と喜んでくれるお客さんはいらっしゃいます。年配の方は『懐かしい』みたいな感じです」と川ノ口さんは言う。
実は川ノ口さんは三代目。2022年夏に二代目の女将さんの「杉ちゃん」が出産のため退任し、切り盛りできる人がいないことから店舗を閉めようかということになった時に、以前、グループの店舗でアルバイトをしていた川ノ口さんにオファーが届いた。当時、川ノ口さんは大学卒業後に入社した広告代理店をやめ、東銀座の和食店で働いていた。
「自分自身も飲食業界に入る時は『自分のお店を持ちたいな』と漠然と思っていましたし、いいタイミングで声をかけていただいたと思いました」
