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三鷹『万歳パンダ』、28歳女将の笑顔に惹かれ令和男女が“昭和”満喫

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その日のメニューは女将さんの手書き

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残す昭和と令和的カスタマイズ

昭和感満載の同店はメディアからも注目される。BSテレ東の「ワカコ酒season4」の「あったか茶碗蒸しと熱燗」(2019年3月18日放送)のロケ地となった。さらに2024年5月10日にはBS-TBSの「おんな酒場放浪記」で扱われ、同局の日比麻音子アナに、おばんざい料理と日本産ワインがふるまわれた。番組ホームページには「カウンターにずらりと並んだおばんざいを3種、5種と選べるおばんざいセットに、女将セレクトの日本ワインを合わせるのが『万歳パンダ』流。日比さんは日本酒、日本ワインをとんとんと5杯ほど頂き、お酒大好き女将のゆきちゃんとすっかり意気投合してしまった」とその様子がレポートされた。

また、「会社員から転職した女将のゆきちゃんは弾ける笑顔が魅力で、女性一人でも入りやすい雰囲気を醸し出す癒しキャラ」とも書かれている(BS-TBS「おんな酒場放浪記」#562 三鷹 万歳パンダ)。

この「女性一人でも入りやすい」という部分が『万歳パンダ』のもう一つの特徴。客層は40代から50代が3割から4割を占める核心層ではあるが、全体の男女比では女性が4割ほどを占め、日によっては女性だけの時もあるという。最近は20代のカップルの来店も多くなったそうで、彼らにとってはノスタルジーに浸る場所ではなく、擬似昭和空間を楽しむテーマパーク的な感覚なのかもしれない。そして和服を着ていても女将さんは20代というのも来店しやすい要素となる。

幅広い世代から利用される店舗は、昭和のテイストを頑固に残す部分と現代的にアレンジ、いわば“令和カスタマイズ”された部分をはっきりと分けている点にあるように思える。昭和を残す部分の象徴が和服に割烹着であるが、それが着慣れずにコスチュームプレイのようになっていたら興醒め。その点、毎日、和服を着て仕事をする女将さんには違和感が全くない。取材に訪れた時、川ノ口さんは仕込みが終わると「ちょっと待っててください」と小上がりで洋服から和服に着替えた が、その間、およそ5分。かなり着慣れた様子で、普段着に感じるぐらいのフィット感は写真で見ての通りである。

おばんざいは日によって変わるため、メニューは毎日、手書き。この手作り感もiPadで注文する現代の飲食店とは対極をなす。

手作りのおばんざいで楽しいひと時

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一方、おばんざい料理は現代的なものを積極的に取り入れている。取材に訪れた時は「牛すじと赤ワイン煮」(700円)、「ゴーヤとパプリカ肉味噌炒め」(600円)、「ヤムウンセン(タイ風春雨サラダ)」(600円)に、作ると毎回完売する「煮込みハンバーグ」(700円)、「唐揚げ」(600円)と、昭和の居酒屋にはなかったであろう料理が並ぶ。また、種類を多く食べたいお客さんのために3種盛り、5種盛りも用意。「自家製合鴨ロース」(800円)など、食事代わりになるメニューも用意してあまりお酒を飲まないお客さんのための心遣いもある。「春巻き」(600円~)は月に1、2回、中身を変更しており、それを楽しみに来る客もいるという。こうした多様なニーズにマッチした現代的な品揃え、オーダーシステムが来店の敷居を下げているように思える。

アルコールはワインが中心というのも昭和とかけ離れている。山梨、山形、長野、栃木、新潟、北海道、宮崎など各地の国産ワインを取り揃えている。昭和のサラリーマンがお銚子にお猪口、あるいはコップ酒で日本酒を飲んでいた風景とはかなり異なる。

「昭和レトロな店内の雰囲気で和服を着て、焼酎や日本酒を出しそうな雰囲気なのですが、ワイングラスがカウンターの上から下がっていて、そうした新旧織り交ぜた面白さを言ってもらえます」

昭和に敬意を払いつつ、現代にマッチしない部分は客のニーズに合わせて大胆に変更する。その思い切りの良さが繁盛する秘密の一つのように思える。

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松田 隆

ライター: 松田 隆

青山学院大学大学院法務研究科卒業。ジャーナリスト。スポーツ新聞社に29年余在籍後にフリーランスに。「GPS捜査に関する最高裁大法廷判決の影響」、「台東区のハラール認証取得支援と政教分離問題」等(弁護士ドットコム)のほか、月刊『Voice』(PHP研究所)など雑誌媒体でも執筆。ニュース&オピニオンサイト「令和電子瓦版」を主宰:https://reiwa-kawaraban.com/