世界一の料理人マウロ・コラグレコさんが語る「東京でレストランを営む喜び」
2023年10月、東京・大手町にオープンした『CYCLE by Mauro Colagreco(スィークル バイ マウロ・コラグレコ)』。“世界一の料理人”と称されるマウロ・コラグレコさんがいよいよ日本へ初進出と世界各国から注目を浴びた。
それから半年が経った今。自身の本拠地『Mirazur』を構える南フランス・マントンを「小さな日本」と呼び、「東京でレストランを手がけることは料理人の憧れ」と言うマウロさんが、グローバルな視点から日本の魅力を語った。
「シフミ! また日本に来られたよーっ!」
筆者の姿を認めた途端、顔をくしゃくしゃにして温かいハグ。「皇居のほとりに桜が咲いていたよ、日本は美しいね」と相好を崩す。
「ほら、グリーンがこんなに豊かに成長してきた。高層ビル群の間でも植物はちゃんと生きているんだよ」
季節の巡りを慈しみ、敬意をもってそれに寄り添う。たとえそれが大都会のど真ん中であっても――。
『Mirazur』オーナーシェフ、マウロ・コラグレコさん。もはや説明不要の世界最高峰のセレブリティシェフだ。イタリア系アルゼンチン人で、故ベルナール・ロワゾー、アラン・パッサール、アラン・デュカスといったフランスを代表するシェフのもとで研鑽を積んだ。
『Mirazur』は2019年、外国人シェフのフランス料理店として初めてフランスの「ミシュランガイド」で三つ星に。同年「世界のベスト50レストラン」で1位に輝いた(現在は殿堂入り)。マウロさん自身も2020年に「世界のベストシェフ100」の1位に選ばれ、2022年には生物多様性のためのUNESCO親善大使にシェフとして初めて指名されている。
世界を飛び回って活躍し、各国から引く手あまたの超多忙なシェフが、コロナ禍という困難に直面しながら日本出店の夢を実現した。
「私は2008年に『菊乃井』三代目主人・村田吉弘さんにお声がけいただいて初めて日本を訪れ、歴史と伝統に基づいた日本の食文化に深い感銘を受けました。以来、機会を見つけては何度も日本を訪れています。初めは鮨や懐石といった日本料理のおいしさと技術力の高さに魅了されました。けれども回を重ねて理解を深めるうちに、世界各国の料理が日本独自の形で発展したことによる“食の多様性”、料理人を支える刃物などの調理器具や漆器・陶器といった工芸品を手がける“職人”の精神の素晴らしさ、そして移りゆく季節を細やかに反映しながら真摯に食材と向き合う農家や漁師といった“生産者”の尊さに出合ったのです」
日本を知るうちに『Mirazur』のある小さな町マントンとの共通点をどんどん見い出していった。前面に地中海を一望し、背後にはアジェル山やウルス山など1,000mを超える高山が連なる山と海に挟まれたマントンは、山や森からの恵みも海の幸も享受できる豊かな土地だ。季節の山野草や野菜と地中海から揚がるバリエーション豊富なシーフードが食卓の中心となる。
「山と海が繋がって循環し、水に恵まれたマントンは、まるで日本の国土をぎゅっと小さくしたようです。山と海の間にある日本の里山は、私たちが取り組んでいるガーデン(自家農園)に当たります。そんなことから私は日本への親しみを込めてマントンを“小さな日本”と例えることがあります。季節に沿って短いサイクルで食材が変わるところも日本と似ていますよね」
英語で便宜的に「マイクロシーズン」と呼ばれる「二十四節気七十二候」の考え方を伝えると満面の笑みでこう言った。
「その思想は『Mirazur』が今提案しているメニュー“ミラズール・ユニバース”の哲学と共通しています。日本の食卓には72の季節があるのですね。『Mirazur』では365の季節があると考えています。なぜなら「ガーデン」の野菜やハーブの状態は毎日変わるため、私たちは植物の声を聞きながら最適な料理を作り上げていくよう日々創意工夫を重ねていますから」
またひとつマントンと日本との共通点を見つけた、と嬉しげだ。
