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世界一の料理人マウロ・コラグレコさんが語る「東京でレストランを営む喜び」

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美食をすべての人に届けたい

「レストランは自身の分身であり子どものようなもの」とマウロさんは言う。各国で展開しているレストランは、それぞれ我が子のようにかわいいが、クローンのように同じものはひとつもないそうだ。

「『根』『葉』『花』『実』のライフサイクルをテーマとした『CYCLE by Mauro Colagreco』は、兄弟の中で最も『Mirazur』に似ているかもしれません。けれども私の思いにシェフ・ミヤ(宮本悠平さん)らしさが融合され、日本の水や作物となじみ、時が経つほどにその個性がくっきりと表現されるでしょう。また、レストランはお客様と共に育つ場でもあります。東京という世界でもトップクラスの美食都市で、成熟したレストラン文化にすでに親しんでいるお客様、そしてガストロノミーを追求するために東京を訪れる世界中の数多くのお客様に私たちの思いをお届けできることは、東京でレストランを手がける喜びです」

先ごろの来日時には”柑橘の町”として有名なマントンの食文化を日本のファンに 紹介する特別メニューを提供した

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最後に、意地悪とは思いつつこんな質問を投げかけてみた。これほどまでに「ガーデン」を大切に思い地産地消を実現するマウロさんが、輸入食材に頼らざるを得ない国や地域でもレストランをプロデュースする理由は何だろう。

「恵まれた自然と意識の高い生産者のみなさんのおかげで、日本の食材は世界最高品質と世界中で賞賛されています。その食材で自分のクリエイティビティを発揮してみたいと、日本に出店したりポップアップやコラボレーションといったイベントに挑戦したりするシェフは数え切れませんよね。私にもそんな気持ちがありました。食材という点では、日本のシェフたちは本当に恵まれていて、うらやましく思うこともあります。

ただ、日本のように恵まれた土地だけでなく、食材が豊かとはいえない自然環境でも私が挑戦する理由は、美食をすべての人に届けたいという思いがあるからです。それにすべての料理がまずい場所なんて、私が知る限り地球のどこにもありません。人々は、その土地の風土に合った恵みを受け、その土地らしい料理をつくっているので、深く掘り下げると思いがけずおいしいものに出合ったりするのですよ」

マントン、日本、ドイツ、シンガポール、タイ、香港、マカオ、トルコ…。さまざまな場所で回を重ねて料理にかける思いを語ってくれた

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そしてマウロさんはこう締めくくった。

「世界中のたくさんの人たちにおいしい料理を届けたい。おいしい食事は人々にとって幸せな体験に繋がるのです。だから人々を幸せにするおいしさをつくりたい。なぜなら私は料理人ですから」

Mauro Colagreco(マウロ・コラグレコ)
1976年、アルゼンチン・ラ プラタ生まれ。2001年に渡仏し、フランス南西部ラ・ロシェルの料理学校を経て、故ベルナール・ロワゾー、アラン・パッサール、アラン・デュカス、ギィ・マルタンといったフランスを代表するシェフのもとで研鑽を積む。2006年に独⽴しマントンに『Mirazur(ミラズール)』をオープン。開店6か⽉で『Gault&Millau』の「Revelation of the Year」を受賞。2007年、ミシュラン一つ星。2008年「世界のベストレストラン50」に初ランクイン。2009年、⾮フランス⼈シェフとして初めて『Gault&Millau』の「Chef of the Year」を受賞。2012年、ミシュラン二つ星。2019年、ミシュラン三つ星、「世界のベストレストラン50」第1位(現在は殿堂入り)。2022年、生物多様性のためのUNESCO親善大使にシェフとして初めて指名される。2023年10月、東京・大手町に『CYCLE by Mauro Colagreco(スィークル バイ マウロ・コラグレコ)』をオープン。

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shifumy 詩文

ライター: shifumy 詩文

旅するフードライター&インタビュアー。“ガストロノミーツーリズム”をテーマに世界各地を取材して各種メディアで執筆。世界の料理学会取材や著名なシェフをはじめ各国でのインタビュー多数。訪れた国は80か国以上。著書に『ほろ酔い鉄子の世界鉄道~乗っ旅、食べ旅~』シリーズ3巻(小学館)。