渋谷の人気魚介ビストロ『PEZ』に学ぶ、アルバイトが自然と「超能動型」になる人材育成術
最初のタスクはトイレ掃除。「自ら考えること」の重要性に気づいてもらう
――山田さんから学んだことで、丹野さんが最も印象に残っていることは何ですか?
丹野:どの卓にも自分の好きな人を案内する気持ちで、お皿やシルバーをピカピカにして、テーブルにセッティングすること。ワインの銘柄やお客さま、シーンに合わせてワイングラスを選んで、お客さまにサーブすること。この姿勢には衝撃を受けました。これらの「接客する以前の下準備」「心がけ」が、実際の接客にも大きく影響する大切なことだと学んだんですよね。
山田:スタッフには仕事道具を丁寧に扱ってもらいたいし、お客さまにも真摯に向き合ってもらいたい。それができて初めてサービスのスタートラインに立てると思っているんだ。
丹野:しっかり準備を重ねると、おのずと自信が持てるようになりましたし、胸を張って接客できるようになりました。
山田:基礎を積むと、自分の自信にもつながるよね。ちょっと昭和的な考えだけど、僕はトイレ掃除ができない人にサービスをさせたくないと思っていて。なぜなら、サービスはお水を継ぐタイミング、ワインのセレクト、料理の内容など毎回変わっていくもので、トイレ掃除より100倍は難しいから。入社してきた人にはみんなにトイレ掃除をしてもらうんだけど、それは「自分で考えて動いてね」ということを感じて欲しいからなんだ。
丹野:居酒屋で働いていたときは「考えて行動する」というより「やらされている感」があったんですよ。けれど今は、疲れはするけど楽しいし、全部自分がやりたくしてしている仕事ばかりになりました。
山田:僕としては失敗してもいいから、失敗したらすぐに対応できる人を育てたいんだ。一杯1,000円超えのワインを提供しているわけだから、ちゃんと気持ちが込められているかどうかは大事なポイント。だから僕としても営業前の準備からみんなの様子をしっかり見て、気になることがあれば声をかけるようにしている。
「好き」を育てつつ、「責任」も与える
山田:翼くんを見てると、本当に勉強熱心だと感じるよ。僕も時間があったら、輸入業者や酒屋から案内されたワインの試飲会に、1日4件ほど行ったりしているけど、翼くんはもっと行ってるんじゃない?
丹野:1日6件行ったりしてますね。
山田:そんなに行ったら、最後バテちゃうでしょ(笑)。けどそうやって翼くんは能動的に動いているから、成長スピードが速いよね。
丹野:以前、山田さんにロワール地方のシュナン・ブランを紹介してもらったと思うのですが、涙が出るほどおいしかったのをすごく覚えています。そのとき僕、目がウルウルしていたのか「めっちゃいい顔してんな」と言われたのがとても印象的です(笑)。
山田:ワイン好きな人が増えてくれるのは、僕も嬉しいんだよね。スタッフにはいろいろ勉強してほしいから、お客さまから貴重なワインを頂いた時には、なるべくグラスにちょっと残しておいて飲んでもらうよう心がけているよ。そういえば翼くんにワインの仕入れを任せるようになったのは、夏ごろだっけ?
丹野:そうですね。仕入れはとても勉強になるし任せてもらえるのはありがたかったのですが、正直前の店長から引き継いでワインを担当することにプレッシャーはありました。慣れないサービスでお客さま、特に常連の方の心を掴めるか不安で。けれど、元店長時代からの常連さんが「翼くんの選ぶワインも面白いね」と言ってくださることもあって。そういうお客さまをもっと増やしていけるように、精進したいですね。
――『PEZ』でアルバイトをスタートされてから10か月ほど経過しましたが、実際に働いてみて、サービスマンとして意識が変化したことはありますか。
丹野:働いて稼いだお金でいろいろな飲食店へ足を運ぶようになって、自分のなりたいサービスマン像が見えてきました。具体的には「自分をかっこよく見せるためにワインをサービスする」のではなく「ワインを輝かせるためのサービス」をしたい。お客さまに「このワインは飲んだことがあるけど、この店で、この人に注がれるともっとおいしい」と思ってもらえたら嬉しいですね。
山田:そうだね。飲食店では一緒に仕事をしている人がお客さまにもなるし、お客さまが同僚になる可能性もあるよね。そういう意味でも、いかにかっこいい、憧れられるお店をやるか、楽しく充実して働いている姿を見せるかは大事だよね。
