創業30周年を迎えるゼットン。集大成の新業態『渋谷舌呑』に見る、高定着率に導く採用・育成術
面接で「勤務可能日数」をあえて聞かない理由とは
面接は、『渋谷舌呑』の立ち上げに携わった第2レストランダイニング事業・事業部長の藤岡尚人氏も担当。個人の任務ややりたいことより、お客に楽しんでもらうことを優先し、“店”を主語に行動できる人材を求めているという。
「新しい店を立ち上げるための採用は、時間をかけて行っています。特に店を任せる『料理長」として採用する場合、スーツを着てかしこまった雰囲気で話してもわからないことがあるので、正式な面接以外にも、食事をしながらざっくばらんに会話する機会を設けました。こうしたやり方は以前から当社の風土としてあるものですが、特に中途採用の場合は事前に当社の考えをしっかり理解してもらうことが重要だと考えています」
また、藤岡氏が管轄する店舗では、どの程度の頻度で勤務できるかを面接時にあえて確認しないという。「たとえ週1日だけの勤務希望だったとしても、店のことが好きになってくれれば必然的に勤務日数は多くなるはず。それだけ店や会社の考えに共感し、目的を持って働いてくれる人材かどうかを判断するようにしています」と藤岡氏は語った。
積極的な対話や発表を促す研修により、定着率が飛躍的にアップ
中途採用者が少なくないゼットンだが、昨年度までは退職者が採用者の人数を上回っていたという。しかし2025年1月から4月の間を見ると、定着率が90%以上と飛躍的に向上した。その背景にあるのが、中途採用者のフォロー体制の見直しだ。
「新卒で入社した社員とは違い、中途採用者は職場環境に慣れるのに時間を要しますし、同期社員の横のつながりも築きにくいものです。また、当社の系列店はそれぞれの店のカラーが際立っていますが、所属する店だけではなく会社としての考えもしっかり理解してもらいたいと考え、新しい取り組みを開始しました」(慎氏)
新たな取り組みでは、入社して1か月と3か月後に人事部による面談を実施し、6か月後には面談のほかに研修も行う。参加社員は講義の内容をインプットするだけでなく、会社に対して求めるものやチャレンジしたいことなどを発表する機会が与えられ、それを上長に提案するためのコミュニケーション力も学ぶそう。さらに研修後には、社長を交えた懇親会を開催。会社の考えを伝えつつ、参加する社員が発言しやすい雰囲気を社長自らが率先してつくることで、さまざまな意見やアイデアが飛び交うのだという。
「スタッフが仕事に対して最初にモチベーションを感じるポイントは、“自分のやりたいことがそこで実現できるかどうか”だと思います。研修や懇親会を通し、当社でなら挑戦したいことを発信し、実現できると実感してもらえるようです」(藤岡氏)
また、研修の実施とともに「等級制度」を新たに導入し、賞与の規定も変更。ひとつの役職の中にさらに細分化した等級を設定することで、店舗ごとの状況に即した昇給やキャリア形成がしやすくなった。賞与はマネージャー以上の役職に年1回支給されていたのが、全社員に年2回と拡充。報酬面でもモチベーションアップを図っている。
「こうした流れによって、以前から勤務しているスタッフからも、さまざまな意見が出てくるようになりました。社内全体の雰囲気がここ最近で変化してきたと感じています」(藤岡氏)
