日本酒×和食でビブグルマン選出。代々木上原『笹吟』が示す、事業承継の「壁」の乗り越え方
「和え物」に焦点を当てたメニュー改革と、日本酒体験のアップデート
新生『笹吟』がまず着手したのは、メニューの最適化だった。かつては焼き鳥なども提供していたがこれらを整理し、店の最大の強みである「和え物」に、よりフォーカスした。
「料理長の高柳は、客単価3万円クラスの日本料理店で腕を振るってきた実力者です。彼が作る料理は、一品一品が本当に丁寧。特に、旬の食材を活かした和え物は、和食の既成概念にとらわれない自由な発想が光ります。この強みをさらに伸ばすため、和え物の種類を15種から20種へと増やしました」(近藤氏)
「鴨といちじくのブルーチーズ和え」や、季節の果物を使った白和えなど、独創的ながら日本酒に寄り添う料理が並ぶ。一方で、「天然鯛の薄造り」や「鯛茶漬け」といった創業以来の名物は、その質をさらに高めて看板料理としての存在感を強めている。客単価は7,000円前後と、先代から大きく変えていない。この価格帯で本格的な和食が楽しめる価値は、店の大きな魅力であり続けている。
日本酒の提供方法にも、二代目・田中氏ならではの工夫が加えられた。
「常時70種類ほどの日本酒を揃えていますが、色々なお酒を楽しんでいただきたいという思いから、従来の1合(180ml)だけでなく、半合(90ml)での提供を始めました。また、私自身が得意とする『燗酒』も強化しています。酒燗器を導入し、温度帯による味わいの違いを提案できるようにしました。夏でも燗酒をおすすめしています」
器はあえて昔ながらの猪口(ちょこ)や徳利を使い、伝統的な空気感を残す。枡の中にグラスを置いてあふれるほど日本酒を注ぐ「もっきり」も健在。こうした細やかな配慮が、以前からのファンを安心させ、新しい客層には新鮮な体験として映っているようだ。
