飲食店側のスポットワーク直前キャンセルで初の提訴。知っておくべき労働契約の成立時期
2025年10月29日、空いた時間に単発・短時間で働くスポットワークで、直前にキャンセルした飲食店に対し大学生が賃金支払いを求めて提訴した(参照1)。スポットワークにおいては企業側の都合で直前にキャンセルする事案が問題視されていたが、提訴にまで発展したのは全国で初めてとされる。今回は、提訴の経緯と内容、大手サービス「タイミー」での利用規約改定について紹介する。
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直前キャンセルによる約1万4,000円の支払いを求めて提訴
スポットワークでの直前キャンセルで提訴したのは、神奈川県の大学生の男性だ。男性は、今年5~6月にスポットワーク大手「タイミー」のアプリを利用して、東京都渋谷区と横浜市の飲食店での求人に応募し、マッチングが成立。しかし、勤務日の前日になって店舗側から仕事をキャンセルされたという。
これに対し男性は、この飲食店を運営する愛知県名古屋市の企業などを相手取り、約1万4,000円の支払いを求めて東京、横浜の簡易裁判所に提訴した。原告側は、マッチング時点で労働契約が成立したとするのが合理的だとしている。提訴時点の「タイミー」の規約では、労働契約の成立時期を、出勤時にQRコードを読み取ることで締結されるとしていた。だが、これは労働基準法に反し無効だというのが原告側の主張だ。
タイミーでは「申し込み完了時点」で労働契約が成立すると利用規約を改定
男性が仕事をキャンセルされたのは2025年5~6月だが、タイミーは同年9月1日付でユーザー利用規約を一部改定している(参考2)。改定された内容は労働契約の成立時期で、「労働契約の成立タイミングは、ワーカーが募集への申し込みを完了した時点」となった。また、企業側からキャンセルする場合は、解約可能事由にあたらない限り休業手当の支払いを受けることができるともしている。
原告側の弁護士である牧野裕貴氏は、「9月1日よりも前のキャンセルについては、何の補償や対応がなされていない状態が放置されており、未払総額は200〜300億円にも上ると推計されます」と話す。さらに求人を募集する事業者に対し、「過去のキャンセルについても、労働基準法違反という違法状態が生じている可能性があることを認識いただき、その上で、コンプライアンスの観点からも、自発的かつ速やかに、未払賃金を行なっていただきたい」と呼び掛けている(参考3)。
なお、厚生労働省も今年7月、「いわゆる『スポットワーク』の留意事項等」として、労働者と使用者へ向けたリーフレットを作成し、一般社団法人スポットワーク協会に対して周知を要請している。リーフレットでは、「面接等を経ることなく先着順で就労が決定する求人では、別途特段の合意がなければ、事業主が掲載した求人にスポットワーカーが応募した時点で労使双方の合意があったものとして労働契約が成立するものと一般的には考えられます」としている。
飲食業界では人手不足という背景もあり、スポットワークは労使双方にとって便利なサービスといえるだろう。しかし、労働基準法をはじめとしたルールを理解せずに自店舗の都合だけで利用すると、今回の提訴のような事態を引き起こすことにもなりかねない。しっかりと自店舗の労務管理を行ったうえで、適切にスポットワークサービスを活用するようにしたい。











