神宮前『CENSU TOKYO』。香港発、東京を席巻する「新感覚IZAKAYA」の全貌
フレンチの技法と「食べたい」を融合。独創的メニューの作り方
その独創的な料理は、フレンチの技法とシェフの遊び心から生まれる。例えば「刺身」。ここには、単に醤油とわさびをつけて食べる「刺身」はない。
「フレンチでは様々なソースを使います。その魚に一番合うソースを自分たちで作って食べてもらった方が、絶対においしいし、他の店とも違う価値になると思っています」
その代表例が、マグロに「たくあんのソース」と「海苔の佃煮」を合わせた一品。いわば「とろたく」の再構築だ。
「僕はとろたくが大好きなんです(笑)。『これ食べたいな、何かできないかな』という視点からメニューを考えることが多いですね」
その発想は定番の居酒屋メニューにも及ぶ。「冷奴」は、山形のだしと揚げナスを寄せ、豆腐自体を一度回してテリーヌ状に固め直す。「きんぴら」は、ごぼうチップスと、ビストロのキャロットラペから着想を得たキャロットピューレを合わせる。クミンや赤ワインソースを加え、洋風なアプローチを行う。
メニュー作りは、香港と東京で連携することもある。オープン当初は9割以上が香港と同じメニューだったが、現在は半々。東京オリジナルの人気メニューも生まれた。
「カニのパッタイは日本だけです。パッタイを作ったことがない人間が作ったパッタイ(笑)。カニ味噌を使っているのが特徴です」
物件探しに1年。神宮前で掴んだ「自分たちのカラー」
『CENSU TOKYO』が根を下ろしたのは、東京メトロ副都心線の北参道駅や東京メトロ銀座線の外苑前駅、JR中央・総武線の千駄ヶ谷駅の中間で、どの駅からも10分以上歩く路地裏だ。
「物件探しには1年ほどかかりました。恵比寿や麻布などの物件も見ましたが、なかなか決まらず……。チームスタッフを先に雇って待機してもらっている状況で、正直焦りもありました」
この物件に決めた理由はいくつかある。一つは、金須氏が学生時代のサッカー部の活動で、何度か訪れたことのある国立競技場が見えたこと。そして何より、一棟ですべてを自分たちのカラーに染められることだった。
「どこかのビルの一角の店舗だと『ここはいじれません』といった制約が多い。それがつまらないと思っていました」
元の鉄板焼き店をスケルトンにし、デザイナーと共に店づくりを進めた。香港のストリートで買ったランプシェード、そして金須氏が「これだけは譲れなかった」という杉の一枚板のカウンターテーブル。『CENSU』の世界観が東京の地に築かれた。


