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「106万円の壁」撤廃が飲食店経営に与える3大影響と、国による「社会保険料の肩代わり支援策」

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2026年10月、いわゆる「106万円の壁」が撤廃され、週20時間以上働く従業員は年収にかかわらず社会保険への加入が必須となる見通しだ(参考1)。本記事では、壁の撤廃が飲食店に与える影響を3つに整理し、国が用意する「保険料肩代わり支援策」や、制度開始までに取るべき具体策について解説する。

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2026年10月をめどに「106万円の壁」撤廃へ

そもそも「106万円の壁」とは、社会保険への加入義務が生じる年収の基準のことだ。月収8万8,000円(年収約106万円)を超えると、パート・アルバイトでも社会保険料が発生し、手取り額が減少してしまう。この壁により、多くの飲食店では、従業員が労働時間を抑える「働き控え」が発生していた。

これが2026年10月をめどに撤廃されることで、「週20時間以上」働く従業員は、原則として全員が社会保険の加入対象となる。

しかし、2025年6月に成立した法改正により「賃金要件(106万円の壁)」の撤廃が決定。これにより2026年10月をめどに、週20時間以上働く従業員は、収入の多寡に関係なく社会保険に加入することになる(参考2)

飲食店が把握すべき「撤廃後の3大影響」

まずは、壁の撤廃が飲食店に与える影響を整理しておこう。

1. 会社が負担する社会保険料の増加
最も直接的な影響は、企業側が負担する社会保険料の増加だ。人件費率が高い飲食店において、このコスト増は利益を直撃するだろう。

2. 優秀な扶養内パートの「働き控え」リスク
壁が撤廃されても、社会保険料の負担を懸念するパート・アルバイトが「働き控え」をする可能性は残る。加入義務が発生しない週20時間未満へと労働時間を抑えるようになれば、シフトの穴埋めが困難になったり、サービス品質が低下したりするリスクもあるだろう。

3. 新規人材確保による人手不足の改善
一方で、壁の撤廃は新しい人材確保の追い風にもなり得る。これまで年収106万円を超えないよう就労を控えていた層が、社会保険完備の環境で安心して長時間働けるようになるからだ。これは飲食店にとって、慢性的な人手不足を解消する好機といえる。社会保険加入を前提に、安定的な雇用条件を提示できれば、優秀な人材を獲得するチャンスも広がるはずだ。

コスト増を相殺! 国の「社会保険料肩代わり支援策」とは

今回の制度変更に伴い、厚生労働省では、パートやアルバイトの社会保険料を一定条件下で企業が肩代わりできる「特例措置」を導入する方向だ。これは2026年10月から3年間の時限措置を想定しており、企業が従業員分を負担した社会保険料の約8割を国が還付する仕組みとなる見込みだ。

この特例制度が有効に機能すれば、飲食店は人材確保を進めつつ、急激なコストアップを抑えられるだろう。詳しくは別記事で解説しているので参考にしてほしい。

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2026年10月までに飲食店が着手すべき3つの最優先事項

2026年10月の制度施行まで、飲食店経営者には準備期間が残されている。今から検討しておくべき具体策は、以下の3つだ。

1. 社会保険料を織り込んだ人件費予算の再設計
まずは、制度変更によって増加する社会保険料を正確に見積もり、人件費予算を再設計することが重要だ。従業員の増減や労働時間の変化、保険料率の変動などを想定し、複数のシナリオで収支シミュレーションを行いたい。人件費を可視化しておかなければ、制度開始後の急激なコスト増に耐えられない可能性がある。

2. 従業員への丁寧な説明と不安の払拭
飲食店で働く従業員にとっても、壁の撤廃は大きな関心事だ。制度変更により、従業員の働き方や手取り収入に直接的な変化が生じるため、早い段階から情報提供を行い、不安を解消することが大切だ。メリット・デメリットをわかりやすく説明することで、新たな「働き控え」の抑制にもつながるだろう。

3. 価格転嫁の検討
社会保険料の増加は避けられないため、価格転嫁も検討が必要だ。原価や競合店の価格を踏まえて価格改定の必要性を判断し、制度改正に備えた収益基盤を構築しておきたい。

ただし、単純な値上げはお客の離脱を招きやすいため、サービス品質の向上や限定メニューの投入など「値上げに見合う価値」を提示する工夫が求められる。

「106万円の壁」撤廃は、人材確保の面でプラス要素がある一方、社会保険料の増加や価格転嫁へのシフトといった課題をもたらす。飲食店経営者は、この制度変更を単なる負担増と捉えるのではなく、体質改善の契機として前向きに取り組む姿勢が重要になるだろう。

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岩崎奈々

ライター: 岩崎奈々

食と旅を愛するフリーライター。広告代理店での営業を経て独立し、現在は旅行やSDGs関連のメディアにて執筆・編集を担当。国内外を巡り、現地の食文化に触れるのが楽しみ。 https://note.com/m_i_t_o/n/n5f9b3414513c