坪月商60万円! 北千住『一歩一歩』が示す、脱・居酒屋ドミナントと「特別な場所」の作り方
職人との「約束」から生まれた焼鳥店。北千住で空白のミドルアッパーへの挑戦
現在は、単なる規模の拡大ではなく、北千住という街に足りないピースを埋めるような店づくりへとシフトしている一歩一歩。その思いが具体化されたのが、2025年11月28日に新業態としてオープンさせた『焼鳥2-61』だ。ここは、これまでの賑やかな居酒屋スタイルとは一線を画す、落ち着いた空間とコース料理主体の業態である。実はこの店の誕生には、ある一人の職人との出会いが深く関わっている。店主を務める樋口大輝氏だ。
「彼とはコロナ禍に出会いました。面接で話を聞くと、とにかく焼鳥に対する熱意が凄まじい。僕は彼の人間性と熱量に惚れ込み『お前がやるなら、俺は焼鳥店を出す』と約束したんです」
かつてお客として『一歩一歩』を訪れ、特別な時間を過ごしていたという樋口氏。その彼が今、焼き場に立ち、大谷氏との約束を果たしている。
提供するのは、樋口氏が選び抜いた鶏だ。もも肉やむね肉には、脂の旨みが強い福島の「伊達鶏」を使用。一方で鮮度が命の内臓系には、山梨の「紅ふじ鶏」を採用している。
「紅ふじ鶏は山梨で深夜3時に解体され、その日の昼12時には北千住に届く新鮮なものを使っています。部位によって鶏を使い分け、焼き方を変える。ここまでやるからこそ、自信を持って提供できるんです」
狙うのは、客単価6,000円前後のゾーン。レッドオーシャンともいえる北千住の焼鳥市場における「空白のミドルアッパー層」だ。
「北千住には焼鳥店が多いですが、極端に安いか、高級店かの二極化が進んでいます。かつて僕らが4,000円の居酒屋で成功したように、この価格帯には大きな勝機がある。テイクアウトや『つまみ』ではなく、しっかりとした『食事』としての焼鳥を楽しんでいただきたいですね」
この新業態は、人材育成の新たなステージでもある。
「これまでの居酒屋業態では『店長』を育ててきましたが、ここでは『店主』を育てたい。マニュアルではなく、樋口のように『この鶏はどう焼けば一番旨いか』を追求する職人としての気概を持った人間が輝ける場所を作っていきます」
「価値の可視化」で客単価は上げられる
飲食業界全体が直面する原材料費や人件費の高騰。一歩一歩も例外ではない。しかし大谷氏は、「コスト削減のために品質を下げるくらいなら、自信を持って単価を上げるべきだ」と断言する。
「中心部から離れたエリアの飲食店ほど、値上げに迷い、結果として原価を削ってしまいがちです。でも、お客さまは安さだけを求めているわけではありません。特に北千住のお客さまは舌が肥えていて、コストパフォーマンスにはシビアですが、価値があるものにはしっかりお金を払ってくれます」
では、どうすれば単価アップを受け入れてもらえるのか。鍵は「価値の可視化」だ。既存の『炉ばた焼き 一歩一歩 本店』などでは、その日の特選食材を高級寿司店のように木箱に詰め、各テーブルまで持ち運びプレゼンテーションするスタイルを昨年秋からスタートした。
「例えば、立派なアジを見せて『この肉厚なアジなら、刺身もいいですがフライにするとふっくら揚がって絶品ですよ』と提案する。ただメニューに『アジフライ』と書かれているだけでは伝わらない価値を、視覚と会話で伝えるんです」
大谷氏は、外食産業の最大のライバルは「スーパーマーケットの惣菜」だと分析している。
「唐揚げのような家庭でも食べられるものが、スーパーなら安く手に入る。だからこそ外食は、スーパーでは絶対に真似できない体験や価値を提供しなければなりません。炭火で焼いた香り、そして目の前でのプレゼンテーション。これらを徹底することで、お客さまの満足度を上げて、単価を適正化することに成功しました」
現在グループ店舗の客単価は4,500円〜5,200円程度まで上昇しているが、客足が衰えることはない。






