外苑前『JULIA』naoさんが語る、独学の生存戦略。未経験から高級店のシェフへ【HER TABLE】
「日本食材×日本ワインへの特化」を生んだニューヨークでの経験
順風満帆に見えた『JULIA』だが、現在のスタイルである「日本食材と日本ワインへの特化」に至るまでには、大きな転換点があった。恵比寿から外苑前への移転準備中、工事の遅れで生まれた1か月の空白期間を利用して訪れたニューヨークでの経験だ。2人が敬愛するレストラン『Gramercy Tavern(グラマシー・タバーン)』で研修をした際、シェフから突きつけられた質問が夫婦2人の価値観を大きく変えた。
「『あなたたちの店では、日本のワインを何種類置いているんだ?』と聞かれたんです。当時、私たちは世界中のおいしいワインをペアリングしていましたが、日本ワインは1本も置いていませんでした。すると、『なぜ自分の国のものを大切にしないんだ』と言われてしまって……。あのときの衝撃は忘れられません」
「日本には素晴らしい食材もワインもあるのに、自分たちはそれを見ていなかった」。その気づきが、現在の『JULIA』の骨格を作った。帰国後、彼女たちは提供する料理とワインを、すべて「日本産」に切り替えるという大胆な方向転換を行う。現在、『JULIA』のコースは、本橋さんが選ぶ日本ワインから逆算して料理が構築される。ソムリエが主導権を握るこの「逆転の発想」こそが、他にはないペアリングの妙を生み出しているのだ。
「阿吽の呼吸」からの脱却。世界を目指す上で「言語化」は不可欠
つくば時代から恵比寿時代にかけては、基本的にnaoさんと本橋さんの2人体制だった。夫婦ゆえの「阿吽の呼吸」で成立していたオペレーションも、より多くのゲストを迎えるレストランへと成長するため、組織の拡大とマネジメントが必要になった。現在は多国籍なスタッフや若い料理人がチームに加わり、海外からのゲストが8割を占める日も珍しくない。
「2人だけのときは楽でしたよ。何も言わなくても通じ合えましたから。でも、チームになった今は『言語化』し続けるしかありません。『このソースの濃度はこう』『お皿の向きはこういう方がいいよね?』と、諦めずに問いかけ、伝え続ける。特に海外のスタッフも多いので、ニュアンスではなく明確な言葉にすることが重要だと痛感しています」
一方で、指導方法については柔軟だ。
「ゴールさえ合っていれば、そこに至るプロセスは任せるようにしています。『私のやり方はこうだけど、同じ結果が出せるならどんなやり方でもいいよ』と。個々の能力や性格に合わせて、伝え方や任せる範囲を変える。画一的な指導はしないように心がけています」
この「任せる勇気」は、独学で試行錯誤してきた彼女だからこそ持てる視点かもしれない。正解は一つではないことを、誰よりも彼女自身が知っているからだ。






