急加速する日本茶需要。西荻窪『Satén』と紐解くインバウンドのニーズと日本茶のこれから
突然の日本茶の波が、世界線を変えた。今求められているのは、抹茶ではない
この約9年間、地道にだが着実に日本茶・日本茶カフェ業界を牽引してきた小山さんは、年間の訪日外国人客が4,000万人を超えた昨2025年、日本茶を取り巻く環境は大きな転換期を迎えたと語る。
「ずっと日本茶は、“飲食店でタダで飲めるもの”“コンビニで安価で買うもの”というイメージが根強く『高価格では売れない』と、下向きのマインドが続いてきました。その風向きが大きく変わったんです」
2025年の夏以降、国内で抹茶の供給難が起きているという報道を目にした人も多いのではないだろうか。その一因といわれているのが、世界的なブームによる抹茶需要の急増だ。そもそも、茶の葉の収穫は原則年に1度。中でも抹茶は特に生産に手間がかかり、収量・生産量が少ない高級品とされている。そこに突如として海外企業が参入し、円安も相まって国内企業の数倍の価格で数トン単位の量を買い占めるとなれば、需給バランスが崩れることは明らかだろう。結果的に在庫の見通しが不透明になり、一時的に各所で売り切れや購入制限が相次ぐほど急激な盛り上がりを見せた。
加えて、近年続くインバウンド客の急増も、日本茶の価値観を変えたと小山さんは話す。
「抹茶ではない日本茶……、つまり煎茶や玉露、和紅茶などのお茶を求めて来店するお客さまが目立つようになりました。理由を聞いてみたら、『抹茶は、自分の国で飲めるから』っていうんですよね。ブームを受けて、海外の主要都市ではすでにコーヒーショップや抹茶専門店で抹茶ラテが出回っている。でもいわゆる急須で淹れる、多様な“日本茶”は飲めない。『だから観光エリアの抹茶専門店じゃなく、評判を聞きつけてわざわざ西荻まで来たんだ』って」
その動きは価格にも影響を及ぼしている。一般的に煎茶よりも高級品とされる抹茶を使ったラテやドリンクが今、スタンドスタイルの店で800円前後で提供されているのに対し、日本茶専門店ではストレートの煎茶が1,000円を超えるという逆転現象が起きているのだ。もちろん、高品質な茶葉が使われていることもあるが、「日本文化をリアルに体験できるもの」として、設えや抽出時のパフォーマンス、さらには二煎三煎と煎を重ねて飲むという日本茶本来の楽しみ方を付加価値として付け、価格に転嫁しているという。超情報化社会・流通のグローバル化が進んでいるからこそ、インバウンド客たちは、現地でしかできない文化的体験を、“抹茶ではない日本茶”に見出しているのだろう。

