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坪月商70万円『めから鱗』の店主が“4種の熱源”で挑む「客単価1万円」の壁【居酒屋の輪】

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株式会社スケイルの代表取締役兼『並木橋みりん』店主の田中秀和さん。魚真グループで10年間研鑽を積み、独立後は『めから鱗』『タイノタイ』とヒットを連発する気鋭の経営者だ

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渋谷区東、並木橋の交差点から少し入った路地に、夜な夜な食通たちが吸い込まれていく店がある。2025年10月にオープンしたばかりの『並木橋みりん』だ。外観は一見すると昭和モダンな喫茶店かハイカラな洋食店のよう。しかし、一歩足を踏み入れれば、そこは芳醇な香りと熱気に満ちた「食の実験室」であることに気づかされる。

古き良き喫茶店を思わせる外観だが、中身はバリバリの和食店。ギャップも魅力の一つだ

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店主は、あの名店ぞろいの魚真グループで10年にわたり腕を磨き、独立後も三軒茶屋『魚と酒 めから鱗』で坪月商70万円を叩き出している田中秀和さん。彼が3店舗目として選んだ戦場は、客単価1万円の高級居酒屋業態だ。

居酒屋としては決して安くない価格帯。しかし、連日満席が続き、訪れた客は口を揃えて「この内容でこの価格は安すぎる」と驚嘆する。なぜ、田中さんの店は、不況や物価高をものともせずファンを熱狂させるのか。その裏には、薪・藁・炭・竈(かまど)という「4つの熱源」を操る常識外れのオペレーションと、緻密に計算された「価値の転換」があった。料理人としての矜持と経営者としての冷徹な計算が交差する、田中さんの新たな挑戦に迫る。

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アンティークの家具などを配置した心地よい空間。開放的な天井高が店舗選びの決め手となった

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魚真で学んだ素材力と、実現できなかった「付加価値」への渇望

田中さんのキャリアを語る上で欠かせないのが、2009年から10年間在籍した魚真グループでの日々だ。「魚しかない居酒屋」という潔いコンセプトで絶大な支持を集める同グループで、彼は渋谷、銀座、吉祥寺といった激戦区の店長を歴任してきた。圧倒的な鮮度の魚を、シンプルに提供する。それが魚真の強みであり、田中さんの原点でもある。しかし、その環境に身を置く中で、彼の中に次第にある「渇望」が芽生え始めた。

「魚真は“魚しかない”という触れ込みで、素材の良さをシンプルに伝えるスタイルです。それは素晴らしいことなんですが、僕はそこにもっと手を込んだこと、自分たちなりの付加価値をつけられるような店をやりたいと思うようになったんです」

名物コースの一角を担う「藁焼きと刺身盛り合せ」。巧みな隠し包丁と豊かな香り

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その思いを形にしたのが、2019年に三軒茶屋でオープンした1店舗目『魚と酒 めから鱗』だった。魚真譲りの確かな仕入れに加え、炭火焼きといったオリジナリティ溢れるメニュー構成で、瞬く間に人気店へと成長。13坪23席の規模で坪月商70万円を売り上げる繁盛店となった。

続く2店舗目『酒と麺タイノタイ』では、「〆のラーメン」という武器を加えて新たな客層を開拓。着実にファンを増やし、経営基盤を盤石なものにした。

既存2店舗が軌道に乗り、スタッフも育ってきたタイミングで、田中さんは3店舗目の構想を練り始める。目指したのは、『めから鱗』の客単価8,000円からさらに一歩踏み込んだ、客単価1万円の店だ。

「単に値段を上げるだけなら誰でもできます。でも、お客さまに納得してお金を払ってもらうには、それ相応、いやそれ以上の『圧倒的な付加価値』が必要になる。じゃあ、僕らにしかできない付加価値ってなんだろうと考えた時に辿り着いたのが、『熱源』の多様化でした」

ガスと炭だけではない。そこに「薪」と「藁」、そして「竈」を加える。近代的な調理設備が整った現代において、あえて手間も管理コストもかかる原始的な熱源を採用する。それは、効率化を是とする飲食経営のセオリーからすれば型破りな挑戦だった。

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佐藤 潮.

ライター: 佐藤 潮.

ミシュラン三つ星店から河原で捕まえた虫の素揚げまで、15年以上いろいろなグルメ記事を制作。酒場系の本を手掛けることも多く、頑固一徹の大将に怒られた経験も豊富だ。現在、Webのディレクターや広告写真の撮影など仕事の幅が広がっているが、やはりグルメ取材が一番楽しいと感じている。