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坪月商70万円『めから鱗』の店主が“4種の熱源”で挑む「客単価1万円」の壁【居酒屋の輪】

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厨房で揺らめく炎。手前では炭、奥では薪が燃える。このライブ感もご馳走だ

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「香り」を食べる。薪・藁・炭、3つの火が織りなす味のグラデーション

『並木橋みりん』の厨房は、さながら火の博覧会だ。焼き場には炭火の焼き台、薪が燃える炉、藁焼き用のスペースが確保されている。これら3つの熱源は、単に「焼く」ためにあるのではない。「香りをつける」という、調味料としての役割を果たしているのだ。

「焼くだけならガスでもいい。でも、薪や藁には特有の香りがあります。これを素材にまとわせることで、味に深みが生まれ、他にない食体験になるんです。いわば、『香りを食べる』料理ですね」

実際に、取材中に振る舞われた「野菜コロッケ」を口にして衝撃を受けた。一見、何の変哲もないコロッケだが、口に含んだ瞬間、燻製のような、しかしもっと力強く野生的な薪の香りが鼻腔を抜ける。

ジャガイモの甘みと薪の香ばしさが複雑に絡み合う「野菜コロッケ」。ソースが不要なほど完成された味わいだ

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「これは、コロッケの具材に薪の香りをまとわせたキャベツを混ぜ込んでいるんです。揚げる前に『香り』という見えない衣を着せているイメージですね」

炭火で焼かれた阿波尾鶏も圧巻だった。付け合せのキャベツは福島から直送で仕入れたもの。薪の炎で一気に焼き上げることで、外側は香ばしく、内側は蒸し焼き状態になり、野菜本来の甘みが極限まで引き出されている。

「徳島 阿波尾鶏 炭焼 焼きゃべつ」。ワサビまで静岡「マルマサ山葵農園」の一級品を使い風味の質を追求する

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「薪はナラの木を使っていますが、今後はサクラやリンゴなど広葉樹の種類を変えて香りの違いを楽しんでもらうことも考えています。藁焼きにしても、瞬発力のある高温で表面を炙ることで、カツオやサワラといった脂の乗った魚のポテンシャルを爆発させることができるんですよ」

藁焼きの香りをまとった千葉県産のメジマグロ。定番のカツオとは違った食感で意外性のある楽しさを演出する

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これらの熱源を扱うには、当然ながら高度な技術と、物件オーナーの理解が必要不可欠だ。

「普通、ビルのテナントで薪や藁を使うなんて許可が下りませんよ(笑)。でも、オーナーさんが『めから鱗』まで足を運んでくださり、僕らの仕事を信頼してくれていたからこそ、『田中さんの店ならいいよ』と言ってもらえた。これは本当に幸運でした」

これまで積み上げてきた信用と実績が、難易度の高い設備導入を可能にしたのだ。

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佐藤 潮.

ライター: 佐藤 潮.

ミシュラン三つ星店から河原で捕まえた虫の素揚げまで、15年以上いろいろなグルメ記事を制作。酒場系の本を手掛けることも多く、頑固一徹の大将に怒られた経験も豊富だ。現在、Webのディレクターや広告写真の撮影など仕事の幅が広がっているが、やはりグルメ取材が一番楽しいと感じている。