月商350万円の梅ヶ丘『十月十日』。名料亭出身&海外修業の料理人がメニュー開発で異彩を放つ
フランス料理ロッシーニを和風にトランスフォーム?
逆に、和食のタブーにも挑戦する。料理界の通説では「生クリームを使うと『和食じゃない』と言われるのですが、そこに切り込んで見えてくるものがあると思うんです。ポタージュでは、鰹出汁に生クリームを合わせています。ヨーロッパの野菜でおひたしを作ったら、どんな味になるのかなども気になる性分ですし。いろいろなことが創作できるやり方が面白いですね」と、紀野氏は快活に話す。
とはいえ、巷の居酒屋・ダイニングで打ち出す「創作料理」とは一線を画す。紀野氏は『菊乃井』で日本料理の素地を築いただけではない。ドイツ、モロッコのレストラン勤務時代にはそれぞれの現場で、国内外で名高いフランス料理店出身の日本人シェフ2人から基礎を学んだ。だから、技術とロジカルな思考がバックボーンにあるのが強み。メニュー開発に関して紀野氏は、言葉を選びながら話す。
「意外と難しくはないんですよ。奇をてらっているわけではありません。参考にする料理の味と食感は確実に頭の中にあるので、形や出し方を変えているだけというか、料理のセオリー自体は全く変わっていないんです」
例えば「新じゃがとフォアグラの饅頭 トリュフのあん」は、フランス料理のロッシーニからインスピレーションを受けて考案している。本来は牛肉にフォアグラをのせて、トリュフソースとマッシュポテトなどで味わう料理だが、それを揚げ饅頭風に改良。フォアグラを中に詰めたマッシュ状の新じゃがを揚げ出し、トリュフとセリのあんかけ仕立てにした。
紀野氏本人は「昔から、あまのじゃくなだけ」と謙遜するが、これまで育んだ知見、感性が昇華して生み出せる一品に違いない。定番の「ソーセージの藁焼き」(1,480円)は、ドイツソーセージを日本古来の藁(わら)焼きで仕上げ、最後にモロッコのスパイス「ハリッサ」を添える。いわば日・独・モロッコの合作料理は、紀野氏の経歴を具現化したアイテムである。
初体験のカウンター主体の小箱で「接客」に苦戦
メニュー表には、そういった情報や知識をひけらかさない。メニュー名はシンプルにパッと見の伝わりやすさを考慮する。名物料理の「カニクリームコロッケ」がまさにそれ。補足説明の記載も具材のズワイガニ、上にかけるミモレットチーズに触れる程度だが、実は中に刻みゴボウを忍ばせている。食べた瞬間に漂う和の風味に驚くお客との会話の糸口になるという仕掛けだ。
カウンター主体の小箱という特性を生かした、“魅せる体験”も重要視。先述の「ソーセージの藁焼き」は七輪に炭と藁を入れることで、煙が勢いよく立ち上る。夏限定のハモ料理を提供する際には、『菊乃井』で磨いた包丁技術「骨切り」を客の目の前で披露。お客との接点を増やす意味でも魅力的な手法だろう。ただし、開店当初は「接客」に関して料理人・紀野氏は、ほぼ素人だった。
「過去に勤めた職場でのお客さまとの接点は、料理の説明をするぐらいだったんですよね。最初はこちらから話しかけて会話をしていくことが全くできませんでした。『どこから来たのですか?』など、会話のテンプレートを3、4つ作って試した時期もありました(苦笑)。料理に注力すれば、ただおいしい店で終わってしまう。いかにお客さまとの関係性をつくれるか、最初の1年はそこをより強く考えていたと思います」


