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せんべろの聖地「立石」が再開発、「呑んべ横丁」の半数が立ち退きに。店主、住民らは何を思う?

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「商店街にかつての賑わいを取り戻したい」

立石エリアの再開発は駅の北側が先行していて、高層マンションや大型商業施設、区役所の建設が予定されている。駅の南側一帯も再開発の対象エリアで、関係者の間で話し合いが進行中である。このエリアには昔ながらの商店街があり、生鮮食品や惣菜を販売する店や、居酒屋がアーケードの下に軒を連ねている。

駅南側には、人気のモツ焼き店『宇ち多゛』や、立ち食い寿司『栄寿司』があり、平日の昼間から行列ができている。『宇ち多゛』はモツ焼きの頼み方や店内の過ごし方に独自のルールがあり、初心者は予習してこないと注文すらおぼつかないのだが、それが一種のカルチャーとして愛されている。小規模な店が多いため、飲食店では客同士の肩が触れあうことも珍しくないが、物理的な距離が近い分、「初めて会った人とも打ち解けて話せる」という人が多く、人情の街として知られる一端となっている。

有名なモツ焼き店『宇ち多゛』

駅南口からすぐの仲見世通りで、手作りの麺を販売する『麺匠 にしわき』の店主、西脇勉さんは、かつての立石の賑わいぶりはすごかったと話す。

「昭和35年から45年くらいまでは、周囲に映画館が5軒、喫茶店が40軒、居酒屋が70軒くらいあって、この通りは歩けないくらい人が多くて賑わっていたんだよ。でも、近くにスーパーやコンビニが出来てからは、だんだんシャッターを降ろす店が増えてきて、さみしくなったよね。建物自体もガタついてきた。ここは元都知事の石原慎太郎さんが視察に来たことがあって、『立石は防災上なんとかしなきゃいけないね』と話していたこともある。街全体を新しくすることで、以前のような活気のある街を子どもや孫に残したいね」

西脇さんは、駅南口の再開発準備組合に所属していることから、新しい街にも商店街を残すことを提案しているという。「やっぱり、ビルばかりでは立石らしくないからね。この街の魅力は人だから。買い物しながら交流できるような商店街や、横丁みたいなものを作れたらいいよね」という希望を語った。

『麺匠 にしわき』の店主・西脇勉さん

「らしさ」は時代によって変わりゆくもの

『横丁まつり』の参加者ら32名は、再開発対象エリアを散策した後、地区センターで、呑んべ横丁の歴史や、立石の未来について語り合った。「立石らしさとは何か」という話題では、「時代の流れに取り残された、生きた化石のような街」「文化遺産のような建物がある街」「アットホームで居心地の良い場所」などの意見が出た。区内で刃物工場を営む男性は、「『らしさ』というのは、時代によって変わるもの。これまでの『立石らしさ』とは惜別し、新しい『立石らしさ』をみんなで探したい」と話す。

主催者であるタテイシデザインプロジェクトの石川寛子さんは、「呑んべ横丁や商店街がなくなっても、その風情をどこかに残したい。再開発の計画で、決まってしまったことは仕方ないと諦めるのではなく、誰かが悪いと責めるのではなく、共有できることを見つけるための試みとして、このイベントを企画した。立石で、自分たちのまちづくりを始めたい。新たな民主主義を実践していきましょう」と参加者に語りかけた。

再開発のために大きな転換期を迎える立石。「せんべろの街」「昭和の面影が残る街」として愛されてきた立石は、これまで以上に魅力的な街に生まれ変わることができるだろうか。今後再開発が予定されている他の街にとって、良いモデルケースとなることを祈りたい。

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三原明日香

ライター: 三原明日香

編集プロダクションに勤務し、フリーライターとして10年以上活動。ふとしたことから労働基準法に興味を持ち、4年間社労士の勉強に打ち込む。2014年に試験に合格し、20年4月に開業社労士として独立した。下町の居酒屋で出されるモツ煮込みが好物。