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FL比率は驚異の39%! 繁盛タイ料理店『999』に学ぶ、「食材費・人件費」の高騰を乗り切るヒント

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人気メニューの「カオマンガイ」950円

メニュー数を絞りながらも、満足度を向上させる秘密

『999』は料理を提供するまでの時間が短いのも特徴だ。人気の生春巻きの調理時間は1分。トムヤンクンは2分だ。ほとんどのメニューはカットするだけ、焼くだけといった手間がかからないものを厳選している。

「使用する食材数を絞るため、メニューは他のタイ料理店の3分の1くらいに厳選しています。ですが、麺類やご飯もの、汁物など、ジャンルを多くすることで品数が多いような錯覚を生んでいます。各ジャンルにつき、だいたい3種類を用意しているのにも意味があります。選択肢が多すぎると、逆にお客さんは悩むんです。悩むことによって『あと一杯飲んでから考えよう』というふうに流されてしまう。なので、選択肢をあえて少なくしています。メニューにもイラストや色をつけることで、原価が低いものを目立たせて、視覚的に誘導するようにしています」

売れ筋1位の生春巻きは単品原価率13%。野菜の端材からだしを取ったトムヤンクンは原価12%の高収益商品だ。アルコール注文比率も50%と極めて高い。

「どこにでも売っているようなお酒ばかり並べていたら、アルコールで店を選ぶ理由にはなりません。うちではタイで実際に飲まれているアジアンビールやオリジナルカクテルなど『ここでしか飲めないお酒』を揃えています。例えば、1リットルのバケツにアルコールを注ぐ『バケツドリンク』は、タイの名物を再現したものですが、週末は注文比率が20%にも達します。ラッシーやピンクミルクなど、オリジナルのソフトドリンクもたくさん揃えているので、お酒を飲まない人からの注文も多いのです」

ここにしかない珍しいお酒やソフトドリンクがあると「飲んでみたい」という気持ちを喚起することができる。ソフトドリンクの値段はアルコールと大して変わらないので、収益の柱になっているそうだ。

『999』でしか飲めないビール・カクテルが楽しめる。なかでも名物である「バケツドリンク」は大人気だ

客の印象に残る料理とは?

『999』の料理は他のタイ料理店の1.5倍以上のポーションで提供される。食材の使用量を増やすと同時に、客の満足感を高めるというのが狙いだ。

「美味しいお店は印象に残ります。同様に、おなか一杯になった店というのも記憶に残るんです。美味しくても満腹感が低いと忘れてしまう。お客さんが『少なかったね』と言って帰るのではなく、『もう食べられない』と言って帰るのが勝ちだと思っています」

新井氏は、客に「美味しい」と感じてもらうため、料理の味付けにも独自の工夫をこらしている。

「みんなが『美味しい』と感じるものには、共通点があります。日本人ならではの味覚だと思うのですが、コクや奥深さに対して、美味しいと感じる人が多いんです。たくさんの食材を使って奥深さを出すところもありますが、うちのような大衆店では難しい。そこで、スープは複数のだしや砂糖などをブレンドすることで、味の奥行きを表現しています。カオマンガイのタレには黒蜜のような甘味を加えた上で、刻んだショウガ、トウガラシを混ぜて複雑さを感じる味に仕上げています。タイ料理は中毒になる人が多いと言いますが、このような味の奥深さにクセになる人が多いのかもしれません」

本場のタイの味を再現するため、食材も厳選。たとえば、日本のブランド鶏はプリプリとした歯ごたえや弾力があるものが多いが、タイの鶏はしっとりと柔らかい。そこで本場の味を再現するため、老人ホームでも使われるほど柔らかい美桜鶏を使用。ごはんは自家製鶏スープを使ってジャスミン米を炊き上げている。本格志向の味に加えて、多くの人が「美味しい」と感じる要素をプラスしているため、高いリピート率を誇っている。

『999』のフードメニュー。品数は多くないものの、厳選された絶品メニューを揃えている

効果的な集客方法にリソースを集中させる

食材や人件費の無駄をなくすだけでなく、集客して売上げを上げるのもFLコストを考える上で大切なことだ。開店間もなく人気店となった『999』はどのような方法で集客しているのだろうか?

「一日の時間帯や天気によっては、お客さんが少ないときがありますよね。僕はそういうときにPRをするのは無駄だと思っています。ですから人の少ない平日は14時から17時は営業していません。逆に、何もしなくても店の前を大勢通るようなタイミングがありますよね。新宿店であればランチタイムや19時以降です。そのときに通行人の興味を引くような工夫をしています。例えば一面ガラス張りの店内に、タイから仕入れたカラフルなインテリアを置いて楽しそうな雰囲気にしたり、LED電球で外観を目立たせたりするのもそうです。調理場とつながるダクトを外に向けて出し、焼いている肉の匂いや、調味料のスパイシーな香りがフワッと漂うようにしています」

五感に訴える方法も功を奏し、週末の夜は客が平均で5回転するという。広告はSNSやグルメサイトなどはほとんど使わないかわり、メディア受けするユニークなイベントなどを仕掛けてプレスリリースを打つことで、自然と拡散されることを狙っている。もともと飲食店経営について専門的に学んでいたわけではない新井氏が、結果を出し続けている理由とは何だろうか?

「僕は昔からすごく数学が好きなんです。数学は問題に対して『答え』がはっきりと得られるところが面白い。経営もそれと一緒です。集客やPRをどうするかという問題に対して最適解を出すために、いろいろ調べてデータを集め、『こうすればいいのではないか』という仮定を立てます。それを証明するため、実験的な意味合いでやってきた部分が大きいのです。はじめから勝算がないものは怖くてできません。『999』に感じた勝算は、これまでタイ料理店はあっても、タイ屋台料理の店はなかったことです。この違いがわからない人も多いですよね。『わからないことには価値がある』と思うので、次はそれをどう発信していくかというところに、この店の『第2章』があると思います」

すべてにおいて、持っている力を集中させる部分と、切り捨てる部分を明確にしてきた新井氏。個人店は大手に比べて資金などのリソースが潤沢ではない。だからこそ、全力で勝負をかけるところと、そうでない部分を「見極めること」が何より大事なのだ。投下した資源に対して最大限のリターンが見込める部分はどこか。逆にリターンが少ない部分はどこか。それを突き詰めて考えることが、FL比率を向上させることにつながるはずだ。

『999 新宿店』
住所/東京都新宿区新宿3-11-6 エクレ新宿
電話番号/050-5593-8610
営業時間/平日 11:30〜14:00 17:30〜24:00
土・日曜日・祝日 12:00〜15:00 17:00〜24:00
定休日/無休
席数/36席
http://www.thailand999.com/

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三原明日香

ライター: 三原明日香

編集プロダクションに勤務し、フリーライターとして10年以上活動。ふとしたことから労働基準法に興味を持ち、4年間社労士の勉強に打ち込む。2014年に試験に合格し、20年4月に開業社労士として独立した。下町の居酒屋で出されるモツ煮込みが好物。