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飲食業界の#MeToo問題、元女性シェフが受けた心の傷と、15年間セクハラ問題無縁の会社

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※写真はイメージ。Photo by iStock.com/Yagi-Studio

セクハラ問題が世間を騒がせている。週刊誌の報道をきっかけに前財務省事務次官による、テレビ朝日の女性記者に対する言動が問題になって辞任に追い込まれたのは記憶に新しい。セクハラに対して、「自分も同様の被害を受けた」ということを意味し、被害を告発する運動である「#Me too」は社会現象にもなっている。飲食の世界も例外ではない。過去に激しいセクハラを受けた女性に話を聞き、その実態を明らかにするとともに、「全くない」という会社にも話を聞いた。

フランスパンで殴られ鼻血、書くのもはばかれる卑猥な言葉

現在、42歳で独身のAさんは、今では大手とされる外食企業に20代の頃に勤務し、厨房に入っていた。男性の多い職場でセクハラ、パワハラはもちろん、暴力も受けていたという。特にひどかったのが当時30歳だった先輩の料理人X。Aさんが仕事で失敗したためにXから激しく叱責され、その後、大きな冷蔵庫の中でしゃがみこんで食材を探していると、突然後ろから襟をつかまれ、冷蔵庫の中を引きずり回されたという。「何なんですか、ギャー、という感じでした。それからその人にフランスパンで殴られて鼻血を出したこともあります」と悲惨な体験を口にする。Xはセクハラも行なっており、ある時Aさんがまかないを食べている時に近づいてきて、こう言った。

「1回やらせろよ」

こうした言葉によるセクハラは日常茶飯事。20世紀末、当時はまだそれが許されないことであるという認識が社会の中で十分形成されていなかった時代である。そうなると女性は自分で身を守るしかない。怒る、冗談で切り返す、無視するなど、様々な方法を使って対抗していった。「この時は『嫌ですよ、Xさん早そうだから』と言い返しました。今、同じことを言われたら落ち込むかもしれませんが、当時は仕事が忙しくて、そういうことで萎えている時間がありませんでした」とAさん。

書くのもはばかれるようなセクハラも受けている。ある時、職場に大きな大根が入荷され料理人が集まって「すごいな、大きいな」と言っている時に、後輩の料理人Yがこう言った。

「Aさんになら、入るんじゃないか」

この時、Aさんは激怒して「気持ち悪い話に、人を引き合いに出すな」と怒鳴ったという。さらにAさんを困らせたのが外国人料理人のZである。食事に誘われて仕事の話だと思ったら「いきなり口説きモード」(Aさん)。「その気はない」とはっきり断ったら、Zに「Aはシェフとデキている」「Aはホストにハマっている」というデマを職場で流されたという。その後、Zから「Aさんは彼氏いないの?」と言われたので、相手の目を見て「シェフとデキてるから。ホストにもハマってるし」と、デマを流した本人に向かって言外に(あなたがデマを流しているのは分かっている)と示した。

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松田 隆

ライター: 松田 隆

青山学院大学大学院法務研究科卒業。ジャーナリスト。スポーツ新聞社に29年余在籍後にフリーランスに。「GPS捜査に関する最高裁大法廷判決の影響」、「台東区のハラール認証取得支援と政教分離問題」等(弁護士ドットコム)のほか、月刊『Voice』(PHP研究所)など雑誌媒体でも執筆。ニュース&オピニオンサイト「令和電子瓦版」を主宰:https://reiwa-kawaraban.com/