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日本の飲食店がアメリカで成功するには? 「北米進出セミナー」完全レポート

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Photo by iStock.com/ablokhin

「ミレニアルズ」がけん引する北米外食シーンのトレンド

続いて、株式会社ミュープランニング代表取締役社長・小吹雄一郎氏が登壇し、北米の外食シーンの潮流について解説いただいた。小吹氏は飲食店の海外出店サポートや海外のローカルシェフとのコラボイベント開催など、日本と海外の懸け橋として精力的に活動している人物。小吹氏によると、北米の外食シーンの鍵となっているのは、「ミレニアルズ」(=アメリカの35歳以下)の存在だという。

「ひと昔前までは考えられなかったことですが、現在のミレニアルズは、『良い車に乗りたい』『大きな家を買いたい』といった物欲がほとんどありません。それよりも自分らしさをどう表現するかという精神的欲求に重きを置いており、同質化された行動を嫌う傾向があります。飲食店でも『星付きの高級店に通いたい』というわかりやすい欲がなく、違う目線で飲食店の価値を考えているんです」

このミレニアルズの考え方こそが、新たなトレンドを生み出しているという。それでは彼らが中心となって作り出されたアメリカのトレンドとは一体どんなものなのか、具体的に見てみよう。

1、日本国内でも注目されている「地産地消」は北米でも人気
各都道府県に名産がある日本では地産地消ビジネスが一般化しているが、「アメリカでも今、地元のこだわり食材が注目されつつある」と小吹氏は語る。

例えば、サンフランシスコ「フェリー・ビルディング」内には、個性豊かなローカル飲食店が並ぶフードホールがあり、人気を博している。日本でいう青空市場や道の駅のようなイメージで、地元の特産品を扱う店がずらりと並び、連日多くの人で賑わっている。ここで購入できる食材は、大手流通業者で購入する場合と比べると価格が20~30%高くなってしまうが、それでも食材にこだわりを持つ人や、あるいは地元の食材を大事にしたいという考え方の人が多くやってくる。選りすぐりの食材が集まっている場所ゆえに、星付きのシェフもわざわざ通うほどだという。

また、マンハッタンにあるレストラン『ブルーヒル』は、ニューヨークの中心地に店を構えつつ、郊外で農園や牧場を併設したレストランを運営。いわゆるファームトゥテーブルを行っている。美味しい食事を提供するだけでなく、農業を教える教室を展開するなど、消費者が食事以外にも価値を見出せる仕組みを作っているという。さらに、ここで扱われている食材はECサイトを通じて購入できるそうで、店の世界観をブランドとしてアピールしながら、物販でも利益を得られるビジネスモデルを作っている。

「これまでは、まずレストランを一店作って、成功したらどんどん多店舗展開していくことが良いとされていました。しかし、現在の傾向としては、1店舗で一つのブランドを作ることで差別化し、そこからECサイトなどの別のビジネス展開を作るほうがより効率的であると考えられています」と小吹氏を言う。

Photo by iStock.com/ablokhin

2、星付きの高級店が経営するカジュアルレストラン
2つ目に小吹氏が言及したのは、星付きの高級店が営む「カジュアル形態のレストラン」だ。ニューヨークやサンフランシスコなどの大都市において、星付きの高級レストランがカジュアルレストランを展開することが増えているという。理由はミレニアルズの価値観の変化もあるが、近年問題視されている人件費の高騰も関係している。

「近年は特に人件費が右肩上がりで、都市部を中心に今後も上昇傾向が続くと言われています。高級店を経営していくにあたり、優秀なスタッフを雇い続けるにはかなりのコストがかかります。そこで、星が付いたレストランはブランディングと優秀なスタッフを囲い込むための拠点と割り切り、価格を下げたセカンドラインのカジュアルレストランでより稼ごうと考える店が増えています」

例えばナパバレーにある三つ星レストラン『メドウッド』は、客単価5万円ほどの高級店だが、同じ経営元で7000~8000円ほどの客単価の店も展開している。三つ星と聞くと売上もかなり高額と考える人も多いが、金土日は売上が高いものの、月~木曜日の平日は売上が少ないことがほとんど。そのため、より普段使いしやすい価格帯の店を展開することで、平日の売上をカバーしているというわけだ。

「特別な日に行く高級店だけでなく、 “プチ・ハレの日”に焦点を当てるサービスが少しずつ増えています」と小吹氏。ほかにもニューヨークの三つ星店『イレブンマディソンパーク』やサンフランシスコの一つ星店『リッチテーブル』など、多くの高級店がカジュアル形態のレストランを展開しており、現在の北米はまさに、カジュアルレストランシーンにおいて群雄割拠の時代であるという。

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3、グルテンフリー、ベジタリアンにみる健康志向と環境配慮
アメリカでも健康志向が広がっており、食の世界でも重要なキーワードとなっている。しかしながら、ローカロリーやシュガーフリー、ファットフリーなどはもはや当たり前とされており、バズを生み出すキーワードにはなっていないという。

現在トレンドのキーワードとなっているのは、「サステーナビリティ」「トレーサビリティ」「エコ」などといった、環境面と人の体、衛生面に配慮された言葉たちだ。近年増加傾向にある「ベジタリアン」「ヴィーガン」などの存在も手伝って、一見当たり前とされている「ナチュラル」「フレッシュ」といったワードに再度関心が集まっているという。

「消費者たちが、自分の口に入るものがどんなものなのかを改めて考える時代になってきています。飲食店側も衛生面や環境面に気を付けることが増えており、アメリカの多くのレストランが、これらのキーワードに関心を持って営業しています」

なかでも話題を集めているのが、ニューヨークで店舗展開する『スイートグリーン』というサラダ専門店。カウンターに並ぶ野菜を器に取り入れ、自分だけのサラダにカスタマイズすることができるのが魅力だ。野菜は農家と直接契約して仕入れるなど、食材に対するこだわりがあるところも人気のポイントだそうだ。

「消費者だけでなく飲食店側も、自分たちの食品にこだわりと誇りを持つようになってきています。価値ある食材にはしかるべき対価を支払うという考え方が、健康志向の広がりの中で根づいてきているのではないかと思います」

トレンドはあくまで検討要因の一つ。自分の店らしさを大切に

様々なトレンドが取り巻くアメリカの外食シーンだが、「競合やトレンドに左右され過ぎて、自分たちが何をしたいかがブレてしまうのも危険」と小吹氏は言う。

「トレンドばかりを追うのではなく、例えば『和牛の魅力を焼肉で伝えたい』『女性の入りやすいラーメン店を作りたい』というように、もともとやりたい商品やサービスからスタートして考えるのがやはりいいと思います。出店に際し、絶対に譲れない幹となるアイデンティティをもとに、出店する街や国それぞれのマーケットの状況に合わせて検証していく。このときにトレンド、人件費、家賃など店舗コンセプトや収支計画に影響する各因子を検討していくことが大切です」

あくまで、トレンドは検討要因の一つ。トレンドを中心に店づくりを考えるのではなく、自分たちの店のこだわりを重点として考えることが大切だといえそうだ。アメリカも日本同様、トレンドは少しずつ変わっていく。しかしながら、自店の個性を見失わず、時代に合わせて臨機応変に対応していくことこそが、海外出店の成功に繋がるのかもしれない。

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『飲食店ドットコム ジャーナル』編集部

ライター: 『飲食店ドットコム ジャーナル』編集部

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