燻製を武器にしたブルーパブで躍進。『Smoke Beer Factory』のコンセプトメイク術
ここ数年のクラフトビール人気もあり、ブルーパブ(Brew Pub)が徐々に増えてきている。ブルーパブとは、店内に醸造所を併設している居酒屋のことで、その店で造られたビールがその場で飲めるのが魅力のひとつ。
ただ、ブルーパブの増加によって、店ならではの独自性を打ち出していくことも必要になってきている。そういった意味で、コンセプト設計が非常に重要であるともいえる。
今回は、東京都内で『Smoke Beer Factory』3店舗を展開し、そのうちの1店舗でブルーパブを経営する株式会社スモークビアファクトリー代表取締役社長の山崎健太氏に、店のコンセプト設計について話を聞いた。
醸造所を造る前に、まずはビールを提供する店舗を出店
東京都豊島区に3店舗を展開する『Smoke Beer Factory』。2015年に要町店をオープンし、2016年に東長崎店、2017年に大塚店と、次々に店舗を展開。そして、2018年には大塚店内に醸造所「NAMACHAん Brewing」を併設し、オリジナルビールの提供を開始した。
最初からブルーパブを造るのではなく、3店舗目に併設させたことについて、代表の山崎健太氏は「醸造所を造る前に、それを提供する店舗を造ることから始めようと考えたのです」と言う。
「1店舗目の要町店を立ち上げて少し経ってから、醸造所を造ろうと決意しました。当時アルバイトをしていたなまちゃん(現在の醸造長)が、自らビールを造って、クラフトビールの素晴らしさを世の中にもっと広げたいと思うようになったのがきっかけです」
とはいえ、ビールを醸造するには、年間製造量が6キロリットル以上(発泡酒の場合)でないと免許が交付されない。狭い店でもその量を確実にクリアするためには、3店舗くらいは広げてから、と考えたのだという。
「3店舗目で醸造所を造って、ほかの店舗でも販売できるようにしたら製造量はクリアでき、自家製ビールの強みも生かせるなと」
燻製とビールでお客さまを飽きさせない店に
『Smoke Beer Factory』は店名からもわかる通り、「クラフトビールと燻製」をコンセプトとしている。山崎氏は『Smoke Beer Factory』を立ち上げる以前からバーも経営しており、そのバーではお酒も料理も充実させたいと考えていたという。
そこでお酒に合う料理についていろいろと試行錯誤し、最終的に行き着いたのが燻製だった。バーで燻製を提供し、その後、クラフトビールと燻製というコンセプトで要町に『Smoke Beer Factory』をオープンした。
「ビールにはたくさんのスタイルがありますが、実は燻製もチップによって味が変わります。桜、リンゴ、ブナ、ウイスキーオーク樽のチップなど、それぞれが全く違う味わいになり、それをビールとかけ合わせたら何千通りものペアリングができますよね」
このペアリングによって、次にお客さまが来店してもまた新しい楽しみが見つけられる。そうすることで、「何度来てもお客さまを飽きさせないお店作りをしたかったのです」と山崎氏は語る。
自分たちの強みである燻製を生かして事業を展開
燻製は好きな人も多いが、万人受けするとは言いにくい料理でもある。しかし、燻製が苦手でも『Smoke Beer Factory』に来てみると美味しさを知ってリピートしてくれる方が多いのだとか。
「燻製を調味料として考えています。料理を美味しくする調味料のひとつ。燻製は尖った料理だとは思いますが、今までになかった燻製の価値観を得て、楽しんでいただいています」
ブルーパブとしてのコンセプトを考える上で、山崎氏は人と違ったことをしないといけないとも考えており、それが山崎氏にとっては燻製だった。
「個人的な考えですが、ブルーパブも増えてきているので人がやっていないコンセプトを見つけながら、それでも普遍的なところはおさえる、というのがいいんじゃないかと思います」
その上で、強みを生かすということが、どんな事業でも大切だと山崎氏は言う。
「日頃から培ってきた燻製の技術をブルーパブでビールに応用しているんです。自分たちの強みを生かすことで、燻製の可能性を広げていきたいなと。燻製の技術を料理、ビールに応用し、現在では燻製料理を飲食店や量販店にも卸しています。年内には燻製の新工場も完成します。自分たちの技術が全部つながっているんです」
突拍子もないアイデアをもってくるのではなく、これまでに培ったものを生かして事業を展開する。その背骨の上に、「NAMACHAん Brewing」を併設するブルーパブとしての大塚店があるのだ。