SDGsをテーマにみんなで語り合う。『新宿ダイアログ』が目指す飲食店のカタチとは？

2019年11月22日更新（2019年11月22日公開）食の仕事人 , インタビュー , 飲食店経営のノウハウ , 食材・メニュー

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SDGs 独自インタビュー独自取材お店紹介

プラス料金で味噌汁とセットにできる、なぎさんが作る「野菜のお弁当」

SDGsをテーマに、「気づき」を共有できる店づくり

メニューを通してもそうだが、店内にいるとさりげなく置かれたSDGs関連の情報誌やチラシなどから、SDGsに関する様々な「気づき」を得ることができる。店のオリジナリティを最も感じるサービスとして特筆すべきは、SDGsを意識した活動団体へ寄付ができる注文システム。ドリンクを注文すると、ドリンク代の内50円分を該当団体へ寄付できるという流れだ。客自らが参加することで、SDGsに対する関心をより高めることにも貢献している。

また、「飲食の分野にとらわれることなく、SDGsに対して自分たちができることをやりたい」という思いから、誰もが環境や社会について話せる場として作られたのが3階のイベントスペース。ここでは、SDGsをテーマにしたイベントを随時行っており、客が大きな気づきを得る機会にもなっている。健康にまつわるイベントや映画上映会、さらにトランスジェンダーである瞬さんや聴覚障害を持つシェフのまるちゃんも、自身の声を発信し、「思いを共有する場づくり」として自らイベントを開催している。

環境、食、LGBTQなど、社会にまつわる様々な情報誌やチラシが置かれている

ドリンク購入で渡される瓶のフタを店内に設置されたSDGsの寄付カップへ投入する

「対話」から生まれる、誰もが自分らしくいられる空間

以上の店づくりもそうだが、この店に来て一番印象に残るのは、客同士、客とスタッフが自由に会話を楽しむ風景だ。そもそも、店名にある「ダイアログ」は“対話”の意味。それを店名に用いた理由について、瞬さんがこう答えてくれた。

「変化の激しい今の時代だからこそ、一度立ち止まってほしい。本当に大切なことについてみんなで対話して、その答えを日常にもつなげていこうよという思いから名付けました。明日が来ることは決して当たり前のことではないし、生きていることだって奇跡。このお店は、そういったことに気づき、いつでも対話できる場所でありたいんです」

『新宿ダイアログ』は建物の2階という立地から、通りすがりに立ち寄るというよりも、客が客を呼ぶという流れで来店するケースが多いそう。カフェ営業の昼間は比較的健康意識の高い女性客が多いが、夜は幅広い世代のLGBTQ当事者が、瞬さんと気軽に話しに来る感覚で訪れるなど、様々な目的をもった様々な客が店を訪れる。この客層の多様性は、店のテーマが見事に届いている結果といえるだろう。店側としても、その反響を嬉しく感じているという瞬さん。

「ここは、LGBTQの当事者かそうでないかは関係なく、誰もが“人”として話せる場所。来られる度に笑顔が増えて、自分らしくきれいになっていくお客様の姿を見ると、自分を取り戻し、見つめ直せる場所としてこのお店が成り立っていることを感じ、とても嬉しいです。週に何回も自分に会いに来てくださるお客様から、自分自身の存在意義を見つけることもできました」

メニューへの質問や店のテーマ説明からSDGsの話に及ぶことも

現在進行形の店づくりで、みんなが夢を叶えられる、新しいスタイルの店を確立したい

オープンしてまだ1年未満、様々な試みを実践している発展途上の店として、野村さん、瞬さんそれぞれが持つ今後のビジョンはこうだ。

「SDGsを店全体のテーマに掲げた飲食店は、今のところうちのお店しかないのではないかと思います。そもそも、SDGsをどう扱うかというのはとても難しいところですが、手探りしながら、その原型を作りたいと考えています。そして、誰かが私達の事例を見て、『これは面白い。自分たちもやってみたい』と思ってくれたらうれしいですね」

「毎日の生活や多くの認識というものは、決して当たり前ではなく、何に対しても『気づける』ことはあるはず。みんなつながっていて、もっと考えることがあるよね、という思いが伝わる店にしたいですね。個人の思いとしては、『歌手になる』という夢をこの場所で叶えられた自分のように、いろいろな人が自分らしさを手に入れて、夢を実現できる場所にできたらいいなと思います」

複雑に多様化する社会の中で、「当たり前」とは何なのか……。『新宿ダイアログ』は他人事になりがちな様々な問題、あらゆる立場やアイデンティティーに目を向け、考えるきっかけをくれる店だった。今後の展開も楽しみだ。