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昭和香る大井町のコーヒーショップ。「居心地のよい空間」を守る店主の心意気

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どれもボリューム満点のメニューが並ぶ

「ホッと安らげる場所」であり続けるために

『カフェ・ド・キネマ』の1日は喫茶だけでは終わらない。18時からはワインバーに業態を変え、各国のワインに合った料理を振る舞う。そして、時にプロジェクターを準備して海外映画の上映会を開いたり、店内で音楽コンサートを催したりと誰もが気軽に集える企画も用意する。石田さんは夜の営業はソムリエに任せ、自らはもっぱら客としてお酒を楽しんでいるという。

試行錯誤しながら、ようやく地に足の着いた営業スタイルを確立した『カフェ・ド・キネマ』だが、近年、石田さんの頭をずっと悩ませ続けてきたのが、店内の「喫煙環境」だ。石田さん自身は非喫煙者で、受動喫煙防止という世の中の流れを見れば店内を完全禁煙にすることもできたが、あえてその選択肢はとらなかった。

「コーヒーと一緒にたばこを吸うことを楽しみに来られる常連のお客さんもたくさんいましたし、喫煙できる空間もセットで“ホッと安らげる場所”を提供しようと創業以来やってきたのに、いきなりシャットアウトしてしまうのはいかがなものかと。たばこを吸いたい人がいる限り、どうにか手立てを打つのが正しい商売道なんじゃないかと思いました」

お店の外に喫煙ブースがあることを明記

そこで、2015年からパーティション(衝立て)で店内を二分し、禁煙席と喫煙席を設ける分煙策を取ったが、その後、国や東京都が飲食店などの屋内原則禁煙を柱とする規制強化の方向性を打ち出したことから、再び対策を迫られることに。

石田さんは外部コンサルタントや店舗改装業者などの助言を得ながら、喫煙専用ブースを構える店内改装を決めたが、ここでも顧客ファーストを貫いた。

「よく2、3人が入るとギューギューになるような電話ボックス型の喫煙ブースを設置する店もありますが、そんな狭い所にお客さんを押し込めるのはイヤでした。7、8人は入れるくらいのスペースがあって、ブース内でもゆっくりたばこが吸える場所を提供したいと、あれこれ考えましたね」

喫煙専用室なので、中での飲食は不可

幸い、ベンチシートになっていた店内の一画を利用すれば、喫煙ブース内でも座りながらたばこを吸うことができる。改装には約230万円かかったというが、そのうち200万円を東京都の補助金で賄うことができると知り、厳しい基準をクリアするために換気設備も強化したという。

そうして喫煙ブースが完成したのが今年2月。広々とした喫煙ブースは、確かに扉の外から空気が勢いよく入り込み、換気口を通して外に抜けていく仕組みのため、たばこの煙が店内に逆流する心配はない。ブース付近に座る非喫煙者もたばこの煙や匂いがまったく気にならない程のレベルだ。

喫煙ルーム内部。ゆっくり腰掛けてくつろげるスペースも大きい

突然やってきたコロナショック

だが、屋内原則禁煙の法律が施行される4月には間に合ったものの、世は喫煙ルールどころか、コロナショックで街中は閑散とする事態に。『カフェ・ド・キネマ』も4月初旬から5月いっぱいの休業を余儀なくされた。

「喫煙対策に加え、昨年10月から消費税が上がり、そしてコロナ禍と3つが重なって店の経営は苦しさを増すばかりですが、なんでも外的要因のせいばかりにしていても仕方ありませんからね。休業明けに戻ってきたお客さんが美味しそうにコーヒーを飲み、喫煙ブースに入って『たばこが吸えるだけでもありがたいよ』と喜んでいる姿を見ると、これまでやってきた努力は決して無駄ではなかったんだと。また頑張ろうという気持ちになります」

1杯のコーヒーで心安らげる“いつもの居場所”。いくら生活様式が変わろうとも、古き良き日本の喫茶文化は今後も受け継いでいってほしい。

『カフェ・ド・キネマ』
住所/東京都品川区大井1-11-3 ニューモリタビル
電話番号/03-3772-6623
営業時間/7:00~23:30(18:00~ワインバー、L.O.23:00)
定休日/無休
席数/38

撮影/内海裕之

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『飲食店ドットコム ジャーナル』編集部

ライター: 『飲食店ドットコム ジャーナル』編集部

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