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『SNOW』開業1年、海野元気シェフが“ワンオペ”にこだわる理由。すべては「ゲストのため」

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『Restaurant SNOW(スノゥ)』シェフ・海野元気さん(写真提供;海野元気さん)

「独立するか否か」。料理人なら、そのキャリアの中で一度は考えることだろう。そして独立する場合に必ず考えなければならないことの一つが、誰と一緒に店をやるかという問題だ。それによって、レストランの営業スタイルは大きく左右される。

そんななか、レストランを一人で営業する、いわゆるワンオペを選択するシェフがいる。あえて人を雇わず、料理もサービスも自分一人で行う。

福岡県のイノベーティブレストラン『Restaurant SNOW(スノゥ)』のシェフ・海野元気さんは1984年生まれ。フランス料理の技術をベースに、新北欧料理の精神で地元九州の郷土性を表現するというユニークなコンセプトを掲げ、2020年7月、福岡市で開業した。

昼夜いずれも10~16品ほどのコース料理。比較的品数が多くワンオペ営業には不向きと思われる営業形態を、最初からすべて一人でやると決めていたという海野さんに、ワンオペ営業を選んだ背景や実際の苦労、メリット・デメリット等について聞いた。

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『Restaurant SNOW』店内(写真提供;海野さん)

一人でやろうと決めるまで

「運になるべく左右されない生き方をしたいと思っていました。僕にとって独立することは料理人としての夢で、20代前半には決めていました。独立するまでにやっておくべきことを考えたとき、料理の腕は自分の努力次第で上げることはできても、良いソムリエさんと出会えるかどうかは、自分の努力だけではどうにもならないことに気づきました。

人との出会いは運です。料理の腕があっても、そのときに一緒にやりたいと思える人と出会えるかどうかはわかりません。また、もしそういう人に出会えたとしても、一緒に仕事をしていくうえで、ソムリエの仕事、サービスの仕事が全くわからないのではまずいと思いました。そしてもともと集団行動が苦手で、自分一人でやることが好きだったというのもあります」

海野さんは23歳でソムリエの資格を取得、24歳でヨーロッパに修業に出る。ソムリエの資格を取ったのは、誰かと一緒にやるか自分一人でやるかにかかわらず、まずは自分がオールラウンダーになる必要があると考えたから。そして、サービスも自分でやることを決めたのにはもう一つ理由があった。それは、一人で何でもできるようにしておきたいという消極的な保険のような理由だけでなく、もっと積極的に、自分自身がサービスもやりたいという気持ちが生まれたからだった。当時、海野さんが修業したデンマークは、『noma』に代表されるような、新北欧料理が花開いていった時期にあたる。

「『noma』などで、料理をサービススタッフではなく料理人自身が運んでくるのが新鮮でした。そして、その料理のことを料理人が自分で説明してくれる。自分でサーブして説明するのもアリなんだなと。修業時代に一番楽しかった思い出の一つは、のちに働くことになるお店で食事をしたときに、ヤコブ(修業先『シュルロル・クロ』シェフ)が料理を持ってきて説明してくれたこと。10年前から今のようなスタイルを考えていたわけではありませんでしたが、僕も、独立したら自分の料理は自分でサーブして、自分で説明したいと思うようになりました」

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うずら

ライター: うずら

レストランジャーナリスト。出版社勤務のかたわらアジアやヨーロッパなど海外のレストランを訪問。ブログ「モダスパ+plus」ではそのときの報告や「ミシュラン」「ゴ・エ・ミヨ」などの解説記事を執筆。Instagram(@photo_cuisinier)では、シェフなど飲食に携わる人のポートレートを撮影している。