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「ホットペッパーグルメ外食総研2021」開催。コロナ禍の外食市場と飲食店におけるDX活用

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DXが飲食店にもたらす変化、実際の事例

まだまだ続くコロナ禍に、飲食店はどのように対応していけばよいのだろうか。第二部ではそのヒントの一つとして、「DXと人で生み出す飲食店の新しい価値」をテーマにパネルディスカッションを実施。モデレーターとしてホットペッパーグルメ外食総研・エヴァンジェリストの竹田クニ氏、ゲストとして株式会社ネクストファクトリーイノベーション代表取締役・中谷俊文(としや)氏と株式会社Cocorodiningの代表取締役・松岡保浩氏が登壇。両社のデジタルツール導入のきっかけや実際に導入しているサービス、今後の展望・課題などが語られた。

竹田氏(左)、中谷氏(中央)、松岡氏(右)のディスカッションの様子

さまざまなトピックが飛び出す中、特に注目したいのは、両社が導入しているセルフオーダーについてのトーク。お客が自分のスマホなどで注文を行うセルフオーダーを導入した結果、両社ともに大きなメリットが得られたという。例えば、ネクストファクトリーイノベーションでは2021年3月にオープンした『地下酒場スタンド ニューツルマツ 心斎橋パルコ店』にて、全テーブルにセルフオーダーを導入したところ、売上が大幅に増加したと中谷氏は語る。

「自分の飲食人生の中でも、ここまで大きな売上になったのは初めてでした。お客様がご自身で注文をするセルフオーダーは、注文のスピード感が圧倒的に違いますね。普通にスタッフが客席でオーダーを取っていたら回らなかっただろうなという現場を、何度も体験しました」

一方、Cocorodiningもセルフオーダーを活用したところ、客単価がアップしていることがわかったという。また、「お客様から『あれ頼んだよね』と聞かれるようなストレスもなくなって、導入してみて良かったと思う部分がたくさんありました」と松岡氏。

売上や売上に繋がる客単価アップは導入の大きなメリットと言える。しかしながら、お客が自分で注文するスタイルにすることで、顧客接点が少なくなることを懸念する店舗も多いだろう。事実、中谷氏、松岡氏ともに、導入当初はお客から「味気ない」「店員に打ってほしい」といった声を聞くこともあったという。これについて松岡氏は顧客接点を作る工夫をしているとのこと。

「顧客接点をどこかに残しておくのは大事ですよね。うちもお肉の焼き方のような料理に関する説明はすべてテーブルに書いてありますが、それでも『こういう風に食べてくださいね』とスタッフが説明するようにしています。デジタルとアナログをうまく融合できるように調整していますね」

自社のセルフオーダー活用について話す松岡氏

中谷氏もまた、料理提供時やスタッフの着用している名札から生まれる会話など、注文時以外のお客とのコミュニケーションにも触れつつ、「それでもやはり味気なさを感じる人もいるので、それをどうやって埋めるのかが今後の大きな課題」とコメントした。

これらを踏まえ、竹田氏はデジタルツールを臨機応変に活用していく重要性について語った。

「デジタルツールを導入するとお客様とのコミュニケーションが減ってしまうと考える人も多いですが、お二人のようにちょっと分解して『この部分はデジタルツールでもいいよね』『こういうところはデジタルツールで強化すればいいんじゃないか』といったように、クリエイティブに考えることが大事といえそうです」

すべてデジタル化するのではなく、各店の強みや課題に応じてうまくツールを活用していくことが重要に

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現場と連携し、従業員満足度を上げていく

ネクストファクトリーイノベーション、Cocorodiningはセルフオーダー以外にも、POSレジやオンラインでの発注システムなど、さまざまなデジタルツールを導入している。その中でCocorodining・松岡氏はデジタルツールが売上管理に大いに役立っているという。

「各店の業績を発表し合う際、昔はパワーポイントで資料を作っていたので時間がかかっていたのですが、売上やコストが自動集計されるリクルートの『Airメイト』を使い始めてからボタン一つでまとめられるようになりました。会社としても作業時間が減って、その分、本来大事にしている“皆で売上目標を把握し進捗を確認し合うこと”に時間を割けるようになったのはありがたいです」

一方、中谷氏は新たにデジタルツールを導入する際に心掛けていることを語った。

「僕はいつも新しいツールを導入する際に、従業員にちゃんと納得してもらえるよう説明することを心掛けています。今回セルフオーダーを導入するときも資料を作り、導入後のメリットをしっかりと伝えました。その中で『接客の機会損失をどうやったら埋められるんだろう』という話をしたときに、逆にスタッフから『こんなふうにやればお客様との接客の機会をもっと作れるんじゃないか』とプレゼンをされて(笑)。意見を貰えたのがすごく嬉しかった」

セルフオーダーなどは現場にいるスタッフに活用してもらうことになるため、スタッフの理解を得ることが重要になるという

デジタルツール活用による業務効率化は経営面だけでなく、現場で活躍する従業員にも大きな変化をもたらす。両社のように経営陣と現場のスタッフが連携しながら活用していくことが肝と言えそうだ。さらに竹田氏はこうしてデジタルツールを積極的に活用していくことが「従業員の労働時間短縮やパフォーマンス向上にも繋がる」と語った。

「アフターコロナはより厳しい人材獲得競争が懸念されますから、顧客満足度だけでなく従業員満足度を高めることも非常に大切。手間やコストを減らすのはもちろんのこと、本来やりたかった業務に時間と労働力を使い、お客様、そして従業員にとっての価値を増やすためにツールを活用すべきだと思います。我々リクルートとしても、市場の状況や業界の事例を調査して内外に周知することで、飲食店経営者が本来やりたかったことの実現や、業界の進化の促進をサポートしていきたいと考えております」

2020年以降、外食市場は大きく変化した。それに伴って飲食店の経営や営業の仕方も変化を求められ、長きにわたって道を模索し続けている飲食店経営者も多いことだろう。苦しい状況を少しでも脱するため、竹田氏は「経営課題の有効な解決手段として、DXがあるんじゃないかと思います」と総括。先行きが見えず悩ましい時期が続くが、自店や従業員を守るための第一歩として、デジタルツールの導入を検討してみるのも良いのではないだろうか。

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竹野愛理

ライター: 竹野愛理

食と文学を愛するライター。飲食店取材、食に関するコラム、書評を執筆のほか、食関連のメディアや書籍にて編集者としても従事。趣味は読書と散歩。本を片手に旅行したり食べ歩きをしたりすることが好き。