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「原材料費の高騰」をどう乗り切るか。飲食店の生の声から実情を知る

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画像素材:PIXTA

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売上の最大化を目指し、ネット通販販売もスタート。新たな販路を拡大

原材料費高騰の煽りを受ける『チリンギート エスクリバ』だが、利益を出すための工夫として、売り上げへの影響が少ないメニューをなくしたり、食材の産地や仕入れ先を変更したりするなどの対応を行っている。加えて売上の最大化を図るべく、店舗営業や店頭でのテイクアウト販売のほか、インターネットを使った通信販売もスタートさせた。店長の伊澤氏は、

「ECサイトでは、『バスク風チーズケーキ』や冷凍の『パエリア ミールキット』を販売しています。現状ECで大きな利益を上げているわけではないですが、いまは種まきの時期だと捉え、外に向けた発信に注力しています」と明かす。

続けて伊澤氏に、今回の原材料高騰の現状について国にどんな支援や施策を求めたいか尋ねると、以下のような答えが返ってきた。

「税金、特に関税の負担が大きいので緩和してほしいですね。本国の食材を使わないといけない飲食店事業者は多いと思いますし、関税の負担は事業者だけでなく消費者にものしかかってくるものなので」

コロナ禍が落ち着き、回復しつつある客足。しかしそれを喜ぶ間もなく、今度は多くの飲食店で「価格転嫁」という難題が立ちはだかっている。

自宅やアウトドアシーンでも本格的なパエリアが味わえる「パエリア ミールキット」に、厳選魚介を付けたセットも販売しているそう

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仕入状況に合わせた日替わりコースで食材ロス削減。原価率を維持

原材料費の価格高騰が続く中、原価率を維持しているお店もある。燗酒と小料理の店『ひねもす』では、従来のコースとアラカルトというシステムから、来店する人全員におつまみコースを提供する「本日のお決まり」(3,300円)を導入した。前菜、お椀、お造り、酒肴、温菜など6品からなるコースで、さらに料理を食べたい人は追加で厳選されたアラカルトメニューの中から注文してもらうシステムだ。

「コロナ禍で時短営業の要請があった際に、このシステムに変更しました。燗番一人、料理人一人で営業しているということもあり、一気にたくさんの注文が入ってしまうと、時間内に料理を提供しきることが難しいことも多くて。また、日によって客足も異なるため、以前のやり方ではロスが出がちだったんです。そこで今のシステムに変えたところ、注文の手間も省け、食材の仕入れもしやすくなりました」

こう話すのは『ひねもす』を営む、雨宮明日香氏。以前は原価率が36%以上だったこともあったが、「本日のお決まり」を取り入れてからは、原材料費高騰の波はありつつも32%に抑えられているという。雨宮氏は、5月に入って客足が伸びていることも影響しているのでは、と推測する一方で、「本日のお決まり」を導入したことによって、お客さんの満足度も高まったと話す。

「日本酒と日本酒に合う料理を提供するお店ということもあり、原材料費高騰の影響は少ないかもしれません。しかしお刺身などのメニューは、客足が減ると原価が圧迫されてしまう状況です。また、ハイボールに使用していたウィスキーの仕入れ値は、1本500円以上値上がりしました。こちらは注文する方が少ないということもあり、メニューから外す対応をしています」

また雨宮氏は、「このまま原材料費高騰の波が続けば、ビールやウィスキー、ワインより、日本酒へ需要がシフトし、日本酒の価格自体も高騰するのではないか」と懸念を示す。日本酒の生産量は前年度の酒米の生産量に左右されるため、急に増産するということが難しいのだ。

ある日の「本日のお決まり」の一品。内容を定番化せず、仕入れ状況に応じた旬食材を使っている

飲食店事業者の努力に頼りきりの現状。政府は迅速な対策を

原材料費の高騰が続く厳しい状況だが、各飲食店事業者はさまざまな工夫を凝らし営業を行っている。とはいえ飲食店事業者側だけに負担を強いるのにも限界があるだろう。原材料費の高騰が続くと予測される間は、一時的にでも消費税や関税を緩和するなどの対策を期待したい。

■取材協力
『チリンギート エスクリバ』
住所/東京都渋谷区渋谷3-21-3 渋谷ストリーム3階
電話番号/03-5468-6300
http://xiringuitoescriba.jp/
https://xestores.stores.jp/

『ひねもす』
住所/東京都武蔵野市中町1-21-10 奥野ビル1F
電話番号/0422-27-8444
https://mitaka-hinemosu.jimdo.com/

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中森りほ

ライター: 中森りほ

グルメ系ウェブメディアの編集・ライターを経てフリーライターに。フードアナリストの資格を持ち、現在マガジンハウス『Hanako.tokyo』や徳間書店『食楽web』、ぐるなび『dressing』、日経『大人のレストランガイド』などで飲食店取材記事や食のエッセイを執筆中。