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竹田クニ氏が語る外食業界の未来。ポストコロナに向け「新しい産業モデル」へ進化を

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あらためて見直したい「飲食店に行く価値」

7割市場に対して提供態を多様化させることは、コロナ禍の収束がまだ見えない現状では重要であります。しかしながら「飲食店」として本来取り組むべきは「“わざわざ来店していただく価値”をどう磨いていくか?」であり、コロナ収束後の未来に向けて大切な議論となります。

そもそも飲食店の価値は、下図にある通り、商品=「料理」だけではありません。食材の選定や、店や料理人が持つ技術やブランド、空間の価値、接客の価値などを合わせた総合的なものが飲食店の価値であります。

飲食店は多様な価値の総合的なもの

コロナ禍を通じて消費者の「食の行動」が多様化した今だからこそ、改めて「あなたの店にわざわざ訪れる価値は何か?」の見直し・再定義が重要です。飲食店の「価値」に関して前回の記事では「食のモビリティ(移動性)向上」「EC、D2C」「孤食化、個食化」「パーソナル化」「イミ消費」「ジャパンプライド」「本物・素材感」「極み・進化形」を提言させていただきました。もちろん、これは今でも引き続き重要な価値のテーマと考えておりますが、今回は2つのテーマを加えて「アルコール・ダイバシティ」「パーソナライズ」「食サ分離」についてご紹介したいと思います。

■「アルコール・ダイバシティ」
世界的なアルコールの過剰摂取問題に対する議論は、日本でも近年高まってきました。前述の「企業とアルコールの関係」でも述べた通り、コロナ禍はより一層この議論を加速させた感があります。

ここに厚生労働省が行った飲酒習慣に関する調査があります。驚くことに、日本人の55.1%と半分以上が「ほとんど酒を飲まない」のです。さらにその傾向は若年になるほど高まります。

「飲酒の習慣がない」割合は全体で55.1%、若年になるほどその傾向が高い

この調査結果は、単に「飲む」or「飲まない」の2軸の話ではなく、飲まない人を含む多様なアルコールとの付き合い方の人々が共存できるという「ダイバシティ」の話として考える必要があると思います。

酒を飲める人でも、その日の都合(車の運転や健康診断など)や、体調、気分などによって飲酒しないこともあれば、量や好みにも個人差があります。そのため「お酒との付き合い方が異なる様々な人」それぞれが楽しめる飲食店づくりをすることが、これからの市場において重要です。

単にお茶や炭酸飲料のソフトドリンクだけでなく、ノンアルコールのカクテルやワイン、オーガニックのジュースやソーダなど、魅力的で楽しめるノンアルコール、低アルコールのラインナップを用意することが有効と思われます。

他方、飲み放題は、「飲み過ぎ=健康を害する」「飲まない人にとっては割り勘負け」といった議論があり、今後の飲食店での採否や変更も必要になってくるでしょう。飲むor飲まない、好むor好まない……多様な人々がともに楽しめる「アルコール・ダイバシティ」は、外食産業の新たな価値キーワードとして今後重要になってくると考えられます。

■「パーソナライズ」
以前の記事でも「パーソナル化」を取り上げましたが、コロナ禍を通じて、このテーマは一層進化したように思います。

デリバリーでは、料理のソースやトッピングを選んで注文できる商品が多く登場しました。代表的なもので言えば、ハンバーガー、サラダ、ピザ、チゲ鍋などは具材、トッピング、ソースなどを個人の好みで色々と選べるものが多く見られます。

また、コロナ渦中である昨年に大手外食チェーンが都心にオープンした焼き鳥店では、お客様のスマホからオーダーできるシステムを導入し、一人ひとり、一本一本を別々の味(タレor塩)で選べるようにしたほか、サラダは具材やドレッシングが選べ、レモンサワーはアルコールの度数を自由に発注できることが話題となりました。

お客様一人ひとりの細かなオーダーに応えられることは、より「お客様の体験価値」を向上させるものであり、今後ますます進化していく領域と思われます。

こうした細やかなオーダーを可能にするのはスマホオーダーならではと言えるでしょう。「人が対応しきれない業務をテクノロジーが可能にし進化する」というDX(デジタルトランスフォーメーション)の事例とも言え、顧客体験価値を向上させる一つの在り方として進化が期待されます。

■「食サ分離」 -食事とサービスの概念分離-
飲食店の6つの価値の中でも、「空間」「接客」は料理や飲料以外の「サービス」という飲食店の価値を構成しています。ところが、日本の飲食店は海外や他産業と比較して「サービスに対する対価」が頂けていなかった。

欧米の飲食店では「チップ」という形でサービスに対価が発生し、他業界で言えば、例えば旅館は部屋と料理は組み合わせで料金が違ったり、飛行機はクラスによってシートと料理が異なります。もちろん、日本の飲食店でもサービス料や席料、個室料金が発生する店は存在するが、事例としては非常に少ない。

一方、日本のサービス業は「おもてなし」という世界に誇れるホスピタリティを有していると考えられており、質の高い「サービス」に対して対価をいただくことは課題であると同時に、大きな「伸びしろ」があると考えられるのです。

「サービスの対価性を上げる」……例えば上質な個室や眺望の良い席に対するアップチャージ、ソムリエのペアリングに対するサービス料などは、もちろん業態によって差はあるものの、今後、日本の飲食店がチャレンジしていくことが重要と考えられます。

食事とサービスの対価を合わせた価格の概念へ

日本の飲食店は“オーバーストア”であるが故に競争が激しく、集客への不安から上質なサービスも無料であることが多く、「お客様のため!」という献身性に「サービスの価値」を内包してしまってきました。価値あるサービスは、それを評価し求めている消費者がいる限り、対価をいただくことにチャレンジしていくことが、生産性向上への一つの有効なアプローチとなるはずです。

「需要減」「消費者の価値観変化」「供給コスト増加」という3重の変化にさらされる外食産業

市場の変化、これからの進化のテーマをお話ししましたが、コロナ禍、そしてウクライナ危機も加わった世界的な環境変化は著しく、本記事では改めて、外食産業を取り巻く環境の変化について整理して考えてみたいと思います。

<外食産業を取り巻く 3つの大きな変化>
■需要の減少→7割市場
背景:働き方の変化→リモートワーク、テレワーク、もとよりあった働き方改革、健康経営
変化:提供態の多様化、外食中食内食ボーダレス競争の加速

■消費者のニーズ・ウォンツの変化
キーワード:「多様な体験価値」「イミ消費」「アルコール・ダイバシティ」「パーソナル化」「食サ分離」

■供給コストの増加 
食材高騰:コロナ禍による生産減、サプライチェーン破たん、ウクライナ危機、円安
エネルギーコスト増加:2020年後半より急騰、円安
人件費高騰:労働人口減、採用難、労働者の外食離れ

需要減、消費者の価値観変化、供給コスト増加という3重の変化にさらされている

これほどの、多重的な、大きな環境変化は恐らく外食産業史上初めて経験するものと考えます。図中には対応するイノベーションのキーワードを例示していますが、何か一つをやったことによって、すぐさま経営改善に繋がるかは難しく、多くの経営者・業界関係者は不安に感じているのではないでしょうか?

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『飲食店ドットコム ジャーナル』編集部

ライター: 『飲食店ドットコム ジャーナル』編集部

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