キユーピー、ブラジル産卵の輸入を発表。背景に長引く鳥インフルエンザの影響と深刻な卵不足
農林水産省の発表によれば、今年5月6日の時点で1,771万羽のニワトリが殺処分の対象となるなど、鳥インフルエンザが猛威をふるっている。そうした中、食品大手のキユーピーは近く、加工用としてブラジル産卵の輸入を行うと発表。本記事では、同社がこうした決断に至った経緯と理由について紹介する。
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唯一、鳥インフルエンザを免れているブラジル産卵
鳥インフルエンザの流行において、卵用のニワトリの被害は特に大きい。理由として、出荷時など、人や物資の出入りが多い環境に置かれることや、肉用と比べて飼育期間が長いため、免疫機能が低下した鳥の割合が多いことなどがあげられる。
こうした背景によって卵不足が深刻さを増す中、キユーピーは、業務用向けの卵を現状では供給しきれないとして、ブラジル産を部分的に使用すると発表した。卵は殻付きのまま冷蔵した状態で輸入し、「液卵」に加工、パンや菓子を扱うメーカーなどの希望に応じて販売する。3月からは福岡県の液卵メーカーもブラジル産卵の輸入を始めており、注目の高さがうかがえる。
では、なぜブラジル産卵なのか。それは世界的に鳥インフルエンザが流行している中、ブラジルだけがその災禍を免れているからだ。
各国からの需要が高まりブラジル産卵価格は高騰も、安定供給を重視
JA全農たまご株式会社が発表している月ごとの相場情報によれば、2023年5月の卵相場(東京:Mサイズ)の基準値は1kgあたり350円。去年の同じ月と比べて131円、率にして59.8%の値上がりだ。
一方、ブラジル産卵の取引価格はというと、国産卵の1.5倍。日本のキユーピーのみならず、卵不足に直面する世界各国からのオファーがブラジルに殺到する構図となっており、むしろ価格は上昇している。つまり、キユーピーなど各社は、価格よりも安定供給を重視した上でブラジル産卵の輸入に踏み切ったという訳だ。
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卵の安定供給回復には最低でも1年が必要
気になるのはブラジル産卵の品質だが、キユーピーでは、国産と比べて品質上の差異は確認できなかったとしている。また、同社はマヨネーズなど家庭向け商品について、ブラジル産卵を使用する予定はないという。
卵不足はいつまで続くのか。少なくとも、ニワトリのヒナがMサイズの卵を産めるようになるまでには、4~6か月の育成期間を要する。ほかにも、鶏舎の消毒や安全の確認、卵の出荷に向けた準備期間などを合わせると、再び卵を供給するには最低でも1年程度が必要だ。
以上のことから、国産卵の供給が安定するのはまだ当分先のことと思わざるを得ない。卵をめぐる市場の動きや企業の取り組みなどについて、当ジャーナルでも引き続き注視していきたい。