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SNSフォロワー3万人『枯朽』清藤洸希さんが作る、料理世界への新しいアプローチ

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エントランスの前で。清藤さん(左)とスーシェフの吉岡翔太さん。ドアの高さは175cmに設定。身長が180cm近い吉岡さんはかがまないと入れない高さだ

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「枯朽」の世界が出来上がるまで

枯朽という言葉は、店名であるだけでなく、清藤さんの料理を含む世界観全体を指す言葉だという。その世界観はどのようにして出来上がっていったのだろうか。

「“枯朽(こきゅう)”は、枯れて朽ちる、字面だとマイナスなイメージですけど、耳で聞くと“呼吸”、息とも繋がって、生命力を感じさせる言葉だと思っています。僕は元々古いものや料理でも古い技術が好きで、そういう自分の好きなものが、料理を通して息を吹き返してくれたらと思って枯朽という名前を考えました。

昔から古いものが好きでした。美しいものより、用途がすぐにわからないものが好きです。木槌のようなものや鉄のコテのように見えるものなど、“どうやって使うんだろう”みたいな。あの棚に飾ったものを見ても、国や年代がばらばらで、統一感はあまりないと思うんですよ。でも、なんとなく全部が馴染んでいて、僕の料理もその延長線上にある」

『枯朽』店内にある棚。清藤さんがこれまで好きで集めてきたものたちが飾ってある

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世界観の「種」は自分の中にある

「ある日、料理の試作で昔の日本の器に料理を盛ったときに、料理の方向性みたいなものが頭の中でばーっと広がって、“こういう店かっこいいかも”みたいな断片が膨れ上がってきたんです。枯朽になるパーツは、その前から多分、自分の中にたくさん持っていたんです。

古いものとか、好きな料理とか、色々なパーツがまとまりなく自分の頭の中にあったのが、この方向でいけば全部まとまるかも、と思った瞬間から徐々に形になっていきました。それがはっきり形になったのも、枯朽という名前が与えられたのも間借り時代です。その世界観に枯朽という名前をつけてから、イメージが加速していった。そのあとは、そこに向けて料理を考えていった感じですね。

料理はフレンチがベースですけど、あえてスパイスや香辛料など色々な国の食材を差し込んでいます。でも多分、枯朽という雰囲気に全部着地していると思うんですよ。うちは何料理なのだろうとか、そもそもこの店って何なのだろうと思った時に、もう枯朽は枯朽としか表現しようがない。僕にとって料理は、枯朽の世界観を作るためのパーツの一つなのかもしれない」

『枯朽』の現在のゲストは30代前後が中心。その多くは、ツイッターを経由して来たファンで、来店後のレビューも、その熱量に圧倒されるものが多い。ゲストの『枯朽』への思い入れが総じて高いのはなぜなのだろうか。

「ツイッターは、レストランの情報が日常的には入ってこない人、レストランに興味を持つタイミングがない…みたいな人も見ています。そして料理だけではなく、趣味の何かや写真など料理以外のことも発信していることが、結果的に様々なジャンルの人が『枯朽』に興味を持ってくれることにつながったのだと思います。そういう人たちが料理にはまって初めて行く店が『枯朽』であるのは、ありがたく、嬉しいことですね。

初めて行った店への思い入れは強いと思う。そういう思い入れがある店に定期的に行くようになると、店と一緒にお客さんも成長していくじゃないですけど、僕はそういう人たちと一緒に『枯朽』をやっていくみたいな感覚もあって、そのことが今後、新たな世界を作っていけるといいなと思います。ゲストの成長と自分や店の成長がシンクロするという感覚というか、意識して仕掛けたわけではないのですが、SNSで色々なジャンルの人に見てもらって、間借りを経由したうえでお店を出すという流れは、結果としてとてもよかったと思います」

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うずら

ライター: うずら

レストランジャーナリスト。出版社勤務のかたわらアジアやヨーロッパなど海外のレストランを訪問。ブログ「モダスパ+plus」ではそのときの報告や「ミシュラン」「ゴ・エ・ミヨ」などの解説記事を執筆。Instagram(@photo_cuisinier)では、シェフなど飲食に携わる人のポートレートを撮影している。