創業67年、昭和の香り漂う酒場『豚の味珍』。激変する横浜駅の狸小路で「守り続けるもの」
『豚の味珍』を象徴する隠語「ラッパ」と「ヤカン」
『豚の味珍』では6種の珍味のほか、白菜の漬物「ラッパ」やピータン、くらげサラダなどのサイドメニューも豊富だ。焼酎、日本酒、紹興酒、ビールなどが揃うお酒の中で、注文が多いのは「ヤカン」の呼び名で親しまれている焼酎(甲類25度)だろう。グラスからこぼれ、受け皿までたっぷり注がれる。呼び名の由来は、ヤカンに入っているからというシンプルなもの。カウンターとテーブルには、ヤカンに加えるための「梅シロップ」が置かれている。
「店のメニューは当時からほぼ変わっていない」と簗瀬氏は語る。
「メニューは私が入店した頃からほぼ同じです。ヤカンもその当時からありました。初代ヤカンは底に穴が空いてしまいましたが、今も本店に飾っています。初代はアルマイト製で、3代目か4代目になる現行のヤカンはステンレス製です」(簗瀬氏、以下同)
「ヤカンとラッパ、それから○○(→珍味)」という客の声が飛び交う光景が、同店の日常である。
珍味が「柔らかく」「もっちり」な秘密
6種の珍味は、味わいも独特だ。いずれも「柔らかく」「もっちり」している。
「創業者が横浜中華街の料理人に豚足やミミの調理法などを教わったそうです。それを日本人の味覚に合うようにアレンジしたと聞いています。普通、豚のミミって『コリコリ』しているでしょう? でも、『入れ歯の方でも食べられるようにしたい』と柔らかな食感にこだわったと聞いています。そのため、どの珍味も醤油ベースの秘伝のタレでじっくりと煮込んでいます。下処理まで含めると、調理に合計2日は要しますね」
高齢の客でも満足できるように柔らかな食感を追求した珍味。今でも、「開店間もない16時から来店する客には高齢者が多い」と簗瀬氏は語る。
さらに簗瀬氏は、珍味に含まれるコラーゲンが豊富である点も強調する。
「煮汁は繰り返し使っているので、豚のコラーゲンがたっぷり。これが『もっちり』感の秘密です」
