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昭和14年創業の名店『ふくべ』、親子3代で受け継いできた“酒場の心得”とは!?

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一番人気だという菊正宗の樽酒を枡に注ぐ技術も見事なもの

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「異業種の転職だがそれほど大変ではなかった」

歴史ある店の3代目として、苦労したことや大変なことはあったのだろうか。

「あまりないんですよ(笑)。仕事も病気をする前の大将や女将から叩き込んでもらいましたし、むしろお客様から『なんだよ、跡取りいたんじゃん』と歓迎されたくらいで」

とはいえ、『ふくべ』の主役である日本酒の扱いには少し苦労したという。

「なにしろ40種類以上あるので、働き出した当初はそれらを飲みながら違いを覚えるのに骨が折れました。あとは酒を温める燗つけ器は季節や室温によっても温度が変わるので、お燗の技術はかなり勉強しましたね」

福祉業界で働いていた前職の経験が活きる場面もあるそうだ。

「噛む力や飲み込む力が弱い方には食べやすいように料理を工夫するなど、いろいろと配慮できるのは介護職をやっていてよかった点ですね。あとは、介護職は観察力がとても大事なので、『あのお客様ちょっと飲み過ぎているかも』とお客様の様子もしっかり見られていると思います」

長く使っている日本酒の銘柄の札も変えずに使っている

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リニューアルしても守るべきもの

『ふくべ』は2022年に建て替えを伴うリニューアルを行った。何かきっかけがあったのだろうか。

「築50年以上の古い建物だったので老朽化が激しかったのが理由です。タイミング的にも新型コロナによる営業時短要請があり、ここでやってしまおうと店を10か月閉めてリニューアルを行いました」

リニューアルに際して、強く心がけた部分があるという。

「なるべく元の店と変わらないようにしています。カウンターの高さも同じですし、酒の棚も同じ。のれんや酒の銘柄が書いている札など、使えるものは変えずに使っています」

創業者である祖父からの言葉も心に残っているんだとか。

「祖父から『店の業種は変えてもいいけど、ふくべの名前は残してほしい』と言われたんです。日本酒で愛されている店なので業種は変えるつもりはありませんし、建て替えて綺麗になりましたが、祖父の言葉もあって歴史ある『ふくべ』をなるべくそのまま残したいという思いでリニューアルしました」

『ふくべ』とは瓢箪(ひょうたん)などを表す言葉で、昔は酒を入れる容器でもあった。創業者がその言葉に込めた思いは今となっては知るよしもないが、80年もの間、さまざまな客人に愛され続けてきた店の矜持を表している。日本の酒場界にとってもかけがえのない名前だ。

カウンター前には日本全国の日本酒がずらりと並んでいる

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取り扱う日本酒の銘柄は変えない。その思いは?

3代目として店に立ち、店の建て替えも行ったが、『ふくべ』らしさは変えないと北島氏は話す。

「ビールは少しありますが、やっぱり『ふくべ』は日本酒がメインの居酒屋なのでそこは守っていきたいんです。過去に焼酎がブームになったときもうちは日本酒を貫いてきましたから」

店で取り扱う銘柄も基本的には変えるつもりはないという。

「今、出している銘柄は創業した祖父が選んだもの。戦後、東京に出稼ぎに来る人達が故郷の酒を飲んで『明日も頑張ろう』と思ってもらえるように全国の日本酒を取り揃えたと聞いています。そうやって飲んでもらった酒が残っているんですから簡単には変えられません」

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松嶋三郎

ライター: 松嶋三郎

フリーランスのライター。堅いネタから柔らかいネタまで、週刊誌やビジネス誌など紙・Web問わず多数のメディアで執筆中。「書く記事はジャンルも内容も媒体も食わず嫌いしない」がモットー。 https://twitter.com/matsushima36