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「ほぼ500円均一」で坪月商100万円超! 上野アメ横『呑める魚屋 魚草』が売れまくる理由

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写真手前から、「本日の刺盛り」(500円)、「エイの肝刺」(800円)。刺身は静岡・御前崎で一本釣りされた姫鯛のほか、アオダイ、インドマグロを使用

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「概ね500円」の均一価格で提供。鮮魚料理の原価率は50%超え

鮮魚店から徐々に立ち飲み酒場へと変化してきた『魚草』は、その営業スタイルも独特だ。

メニューラインアップは日替わりで、フードは刺身などの鮮魚料理を約10品、アルコールは日本酒約10種とヱビス小瓶、白ワインを用意。一個400円、三個1,000円で提供する「本日の生かき」など一部の商品を除いて、「概ね500円」というざっくりした均一価格を採り入れている。支払いはキャッシュオンデリバリー方式だ。

フードは刺身や焼き魚など鮮魚料理10~15品を揃え、そのうちの7割ほどの価格が500円。漬物やポテトサラダといった鮮魚料理以外の居酒屋メニューを一切置いていない

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立ち飲み酒場の相場としては特に低単価というわけではないが、それでも『魚草』のお値打ち度はきわめて高い。

たとえば、取材当日の「本日の刺身」(500円)に盛られていたのは、インドマグロ、姫鯛、アオダイの刺身(各二切れ)。また、モウカ鮫の心臓の刺身である「モウカの星」(500円)、クセがなく脂が乗った「エイの肝刺」(800円)、ごはんを覆い隠すようにたっぷりのイクラが盛りつけられた「いくら丼」(700円)など、オリジナル性の高い商品がずらり。品数は多くないものの、付加価値の高い商品ばかりが揃えられている。

大橋氏は「大雑把な性格なので原価率はきちんと出していませんが、おそらく50%は優に超えるでしょうね」と笑う。

仕入れは豊洲市場のほか、三陸をはじめとする各地の仲卸業者や水産加工会社、漁師などから直送。店内にはメニュー短冊と並べて取引業者の名前を記入した短冊を掲示しているが、ここには出自の明確な食材を扱っていることをアピールする狙いとともに、「お客様が鮮魚料理を口にするまでの間には、さまざまな業者の方がかかわっていることを知ってもらいたい」という大橋氏の思いが込められている。

産地と仕入先の業者を記した短冊を店内に掲示。日本酒の蔵元も短冊で示している

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女性ひとりでも利用しやすいよう「セクハラ 一発退場!」のメッセージを掲示

ところで、店内を見回すと「大声 セクハラ 奢り&奢られ 一発退場!」、「30分、2杯まで」という『魚草』の独自ルールが貼り出されているのが目に入る。「一発退場!」の文字の下には「楽しんでいるのは、あんただけ」というややきつめの言葉も記されているが、これは年齢、性別、国籍に関係なく、幅広い層のお客に利用してもらうことを目的に設定されたルールだ。

狭いスペースを複数人で共有する立ち飲み酒場は、お客同士の距離が近くなるため、酔っ払ったお客が酔いの勢いに任せてほかのお客に絡むというトラブルが発生しやすい。『魚草』には女性のひとり客も数多く利用するため、強めの言葉はトラブルの発生を防ぐとともに、「女性のひとり客でも安心して飲める店」というメッセージにもなっているのだという。

店内に掲げられた独自ルール。実際に一発退場になったお客はいないが、注意喚起によってお客同士のトラブルを未然に防ぐ狙いだ

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ちなみに、「30分、2杯まで」というルールができたきっかけはコロナ禍。当時は多くの居酒屋が大打撃を受けたが、『魚草』の経営ダメージはより深刻だった。営業時間が12時~19時30分だったため、休業要請に従っても協力金を得ることができず、しかも「アメ横のテナント料は銀座の一等地並みに高い」(大橋氏)ことが響いた。

背に腹は代えられず、一回目の緊急事態宣言が解除された2020年5月25日以降、大橋氏は営業の継続を決断。平時はスタンディングで最大18人を収容するが、感染防止策として最大10人までとし、さらに「30分、2杯まで」という制限を設けた。そんな当時の苦悩が垣間見える貼り紙が今も掲示されていることについて大橋氏は「飲み過ぎ防止に役立ち、回転率アップにもつながるルールのため、そのまま残すことにした」と説明する。

「30分、2杯まで」はあくまで目安としてのルール。ルールを明示することで飲み過ぎたり、長居するお客が大幅に減ったという

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栗田利之

ライター: 栗田利之

フリーランスの記者として、15年以上にわたって外食経営誌の記事を執筆。大手、中堅の外食企業や話題の繁盛店などを取材してきた。埼玉県下を中心に店舗網を拡げている「ぎょうざの満洲」が贔屓の外食チェーン。