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横浜屈指の繁盛店、トラットリア・ダ・ケンゾー。売上を作るのは凄腕の「カメリエーレ」たち

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『ダ・ケンゾー』のソムリエ。左から加藤剛さん、矢野航さん、老田裕樹さん(キッチンスタッフ)と、この日休みだった前田慶裕(よしひろ)さんの4人

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アラカルトの注文を取ることで売上が立つ

昼も夜もメニュー表が2種類ある。コース料理(昼は3,800円、6,600円、8,800円の3種類。夜は6,600円と8,800円の2種類)のメニュー表と、本日のパスタ、前菜、メインなどが記されたメニュー表だ。

この日のパスタは13種類。昼のアラカルトは9種類。夜の前菜は17種類。セコンドピアッティは7種類。

昼も夜もコース料理だけ注文を取っていたのでは売上が伸びない。アラカルトとワインのオーダーを受けて初めて売上が立つ。そのためにもカメリエーレが今日の食材を説明しつつ、言葉巧みにアラカルトを客に提案する。結果、客も満足し、客単価が上がる。それが矢野さん達カメリエーレの仕事だ。

実際どのように料理を勧めるのか、2人客がディナーに来たという想定で、矢野さんに教えてもらった。

「前菜の盛り合わせ」には、健三シェフが市場で仕入れた魚介類などが盛られる

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「今日はいい岩牡蠣(1個1,800円)が入ってます。岩牡蠣をシェアし、盛り合わせ(3,600円)を2人分ずつわけてお出ししますので、スパークリングワインで始めませんか。パスタは伊勢海老(7,000円)のトマトパスタはいかがですか。こちらも取り分けてお出ししします。あるいは、うちの名物料理の産直魚介のペスカトーレリングイネ(3,200円)をシェアして、オーストラリア産仔羊の炭火焼き(5500円)を召し上がりませんか」

岩牡蠣、盛り合わせ、伊勢海老のパスタを頼むと一人6,200円。岩牡蠣、盛り合わせ、ペスカトーレ、仔羊の炭火焼きだと一人7,050円(ともにワインは別)。価格的にはコース料理と大差ないが、客としては自分達が選んだ料理を味わえ、笑顔で帰っていくことになるはずだ。

スタッフとも積極的にコミュニケーションを取る、兄貴分的な健三シェフがダ・ケンゾーの明るい雰囲気を醸し出している

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メニューにない料理や調理法を客に提案する

メニューにない料理をカメリエーレが客に提案することも多々あるという。例えば、カルボナーラもペペロンチーノもメニューにないが、オーダーがあれば作る。メニューにクリーム系のパスタがない日でも厨房にポルチーニがあれば、「ポルチーニのクリームパスタもお作りできます」という対応をカメリエーレ全員ができる。

「メニューにない料理の注文を受けても、材料があればシェフは喜んで作ってくれます。どうすればお客様が喜んでくれるかをシェフ自身が一番理解しているし、その判断をカメリエーレに任せてくれています」(矢野さん)

8月某日のメニュー。下段のセコンドピアッティにある、本日の鮮魚には魚の名前しか書かれていない

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調理の仕方をカメリエーレが客に提案するケースもある。例えば、今日のメニューにある「本日の鮮魚・ハタ・オナガダイ」がそれだ。その下に書かれた肉料理にはカツレツであるとか、炭火焼きと記してあるが、鮮魚のメニューには魚の名前しか書かれていない。

「この鮮魚をお客様に勧めるときは、『ハタと今の旬のハマグリでアクアパッツァにしましょうか』、『野菜と一緒にローストしても美味しいですよ』という提案をします」(矢野さん)

ジャンルを問わず大半の飲食店は、紙などに記したメニューでこと足りる。だが、『ダ・ケンゾー』の場合、メニューにある料理は一部に過ぎない。メニューにない料理を提案するなどのフレキシブルなやりとりが客、カメリエーレ、キッチンスタッフの三方向で交わされているのだ。

「すべてのメニューでこのような会話がなされているわけではありませんが、ほかの店よりもはるかに多いと思います」(矢野さん)

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中島茂信

ライター: 中島茂信

CM制作会社を経てライターに。主な著書に『平翠軒のうまいもの帳』『101本の万年筆』『瞳さんと』『一流シェフの味を10分で作る!男の料理』『自家菜園のあるレストラン』。『笠原将弘のおやつまみ』の企画編集を担当。「dancyu web」や「ヒトサラ」、「macaroni」などで執筆中。