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2024年度「アジアのベスト50レストラン」。開催地ソウルから“美食の祭典”をレポート!

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ソウルが世界に掲げた“プラントベース”と“ジェンダーフリー”

なんと言っても今回目を引いたのは、農業食料農村省(MAFRA)とソウル市の全面的なサポートのもと官民が一体となった韓国の総合プロデュース力だ。

各国の評議委員長(アカデミーチェア)や「世界50」の運営元といった超ビッグネームのためのウェルカムディナーとして、公式セッション「Jeong Kwan(チョン・クワン)×Jungsik(ジョンシク)」が開催された。

『白羊寺』の尼僧チョン・クワンさん(左)と『Jungsik』のYim Jungsik(イム・ジョンシク)さん(写真提供:The Worldʼs 50 Best Restaurants)

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「韓国で最もクリエイティブでラグジュアリーなキムパ」といわれる『Jungsik』のシグネチャーディッシュ「オールインワン・キムパ」をプラントベースに再構築(写真提供:The Worldʼs 50 Best Restaurants)

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時を遡ること2か月。日本評議委員長の中村孝則さんいわく「ウェルカムディナーがプラントベースなのは、僕の記憶にある限り初めて」という新しい挑戦は冬の『白羊寺』で始まっていた。

『Le Bernardin』のEric Ripert(エリック・リペール)さんや『Noma』のRene Redzepi(ルネ・レゼピ)さんといった世界的なシェフにも影響を与え、2022年には「アイコン賞」を受賞した尼僧チョン・クワンさんの元を、モダン・コリアン・キュイジーヌを世界に初めて広めたK-カリナリー界のレジェンド、ジョンシクさんが訪れた。

山の幸や手づくりの発酵調味料について教えを乞う。左はジョンシクさんに同行した次世代の注目シェフ『Kang Minchul Restaurant』のKang Minchul(カン・ミンチョル)さん

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『白羊寺』でチョン・クワンさん自身が調えてくれた冬から早春へと移ろう時期の滋味に溢れた韓国精進料理

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韓国らしく人々を惹きつける新しい取り組みは授賞式当日の会場でも行われた。これからのソウルのガストロノミーを担うと期待されるネクスト・スターたちが、アワード前に開かれたレセプションでそれぞれブースを構えて料理を振る舞った。

「ミシュランガイド ソウル&釜山2024」で唯一、一つ星から二つ星に昇格した『Restaurant Allen』のAllen Hyunmin Suh(アレン・ヒョンミン・ソ)さんも参加(写真提供:The Worldʼs 50 Best Restaurants)

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さらに授賞式翌日の夜には、各国の女性スターシェフ4名による公式セッション「Soul×Potong(17位)×Lolla×Korea House」を開催。女性を中心に、各国で最も影響力のあるシェフやジャーナリスト、インフルエンサーに参加を呼びかけた。

これが奏功し、例年であれば世界を飛び回る多忙な彼らの大半はアワード翌日には開催地を離れるが、今回は多くが市内に1日長く滞在した。また、公式セッションをディナーに設定したため、昼間の空いた時間を使って、話題のレストランを1軒多く体験した。彼らの大半は「アジア50」の投票者だと予想できる。筆者は来年の飛躍が期待される一軒を訪れたが、みっちり満席のダイニングの9割が、著名なシェフやジャーナリスト、インフルエンサーで埋め尽くされていた。

右からジョアン・シイさん、『Potong』のPichaya “Pam”Soontornyanakij(愛称パム/アジアの最優秀女性シェフ賞)、韓国で“シェフの先生”と慕われるCho Hee-sook(チョ・ヘス ク)さん、『Soul』のKim Hee-eun(キム・ヒウン)さん

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料理や舞踊など韓国の伝統文化を複合的に発信するために韓国伝統家屋をリノベーションした「コリアハウス」

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これから世界が緩やかに、しかし確実にシフトしていくと予測されるプラントベースが、すでにガストロノミーとして成熟していること。また、韓国ガストロノミー界は女性にも開かれていることを鮮やかに印象づけたソウル。アワードが開催された都市にあるレストランが翌年のリストに多く名を連ねるというこれまでの前例にならうと、来年はいくつものソウルのレストランがランクインすると予測される。

こうして読み解くと、これまでアワードを誘致していない日本から最多タイの9軒がランクインしたことは驚くべきことだ(正確には2021年は横浜、2022年は東京と2回開催されたがコロナ禍の影響で国内のシェフやメディアのみを対象に人数も制限して行われた)。

日本はアジアの中では飛び抜けて飲食業界の層が厚く、また、それぞれのレストランのシェフやチームが厳しい環境の中で日々努力を重ね、豊かなクリエイティビティを発揮した結果が“アジア最多”を誇る成果を生み出しているのはもちろんだ。だが、ここでは日本勢を影から支える2名の貢献者についても触れておきたい。

ひとりは日本評議委員長の中村孝則さん。メディアとレストラン業界の両方を知る彼は、時に両者の交流の場をセッティングしたり、メディアの視点からシェフたちにさまざまなアドバイスをしたりしながら、日本のレストランとシェフを世界に発信する機会をつくってきた。

「アジア50や世界50は、ボーダーレスなコミュニティをつくることも主旨の一つであり、日本のレストランやシェフは、国境など気にせずどんどん世界へ羽ばたいてほしいと思っています。けれども日本評議委員長の自分としては、やっぱり日本のレストランに1店でも多くランクインしてほしいし、日本の素晴らしいシェフたちをひとりでも多く世界のみなさんに知ってほしい」(中村孝則さん)

日本評議委員長の中村孝則さん(後列右)。彼の「チームジャパン!」のかけ声に香港や台湾など国外で活躍するシェフも集まり、メディアが一斉にカメラを向けた。今では各国の恒例となった国別の記念撮影は中村さんが始めた(写真提供:Fukuyama Goh)

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もうひとりは『NARISAWA』の成澤由浩さん。2013年に「アジア50」がスタートして以来、入れ替わりの激しいリストに連続してランクインし、授賞式にも積極的に参加している。海外のシェフからも尊敬される日本のシェフとして、日本の料理人やレストランだけでなくプロダクツも海外に紹介するなど、影響力の大きさは計り知れない。子息のレオさんは、いまやすっかり世界の人気者だ。

『NARISAWA』の成澤由浩さん。「ベスト50」コンテンツディレクターのWilliam Drew(ウィリアム・ドリュー)さんと(写真提供:The Worldʼs 50 Best Restaurants)

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shifumy 詩文

ライター: shifumy 詩文

旅するフードライター&インタビュアー。“ガストロノミーツーリズム”をテーマに世界各地を取材して各種メディアで執筆。世界の料理学会取材や著名なシェフをはじめ各国でのインタビュー多数。訪れた国は80か国以上。著書に『ほろ酔い鉄子の世界鉄道~乗っ旅、食べ旅~』シリーズ3巻(小学館)。