「この子メインでいける」。 レモンサワーの人気店『酒肆一村』を生んだオーナーの演繹的思考
演繹的な手法で『酒肆一村』が誕生
大野氏が「この子」と呼ぶレモンサワーを中心とした2店舗目が『酒肆一村』である。1店舗目のコンセプトが「バーと居酒屋と割烹の融合」だったものを、『酒肆一村』ではバーの要素を強く打ち出そうと考え、居酒屋では使わないトニックウォーターをレモンサワーに使用することでコンセプトに合うと考えたという。
こうした展開は素人目にはリスクが大きいように思える。1店舗目が人気が出たのなら、別の場所に同種店舗を作れば失敗するリスクは少ないと思うが、大野氏がそうしなかったのはその独特な思考経路にあるのかもしれない。
「僕は情報を集めてから一度分解し、コンセプトに合わせて組み立てていきます。『これはいる』『これはいらない』と選んで組み合わせていくのが経営者の仕事だと思っています。そうすると、そう(コンセプトに合わせた店作りを)せざるを得なくなります。分解してから組み立てる。僕はずっとその方法で生きてきました。(ビジネスは)そういうゲームだと思っています」
要は居酒屋とバーを融合した店舗でレモンサワーで売っていくというコンセプトに自信とやる気があり、それを実現するために細かい部分を調整して組み合わせていく。実際、同氏は「エンターテインメント的というか、世間をびっくりさせたいといった思いが結構あります」と言う。
論理的な思考法で分類するなら、自分がやりたいこと、自信があるコンセプトという一般的・普遍的な前提を設定し、そこから個別的・特殊的な結論を得る演繹的な手法と言える。
過去の個別の成功事例から、「こういう店をつくれば流行る」という一般的・普遍的な規則・法則を見出す、多くの経営者が行っていると思われる帰納的手法はとらないことで、『酒肆一村』は生まれたように思える。
5種類のレモンサワーが完成
『酒肆一村』をレモンサワー中心の店で行くことを決定し、前述のように5種類のタイプを完成させた。5種全部を完全な商品として揃えるのに1年以上の月日がかかったという。
基本は1番のトニックウォーターをベースにした名代(なだい)で、これがシェア50%程度を占める。2番の塩味についてはオープン前から作っていたが、たまたま顧客から酒粕が入った塩をプレゼントされ、それを入れて作ったところこれまでにない美味だったことで決定。
3番の甘みはべったりとした甘味にならないように、少し塩味を効かせてシャープな甘さとした(オールドトムがベース)。4番辛味(柚子ペッパーと唐辛子を漬けたベースのジンの辛味)、5番苦味(薬草を漬けたウンダーベルグ)を加えた5種類のラインナップが完成したのである。名代の次に人気があるのが2番塩味、その次に4番辛み、5番苦味、3番甘味という順番になっているという。
こだわりは氷にも及び、マイナス20度に冷やした氷を入れて提供している。その理由は「(作った直後の)グラスの中のものが完成品で、その完成品を100%完成品であり続けるためにはグラスの中を冷凍庫、冷蔵庫の状態にしておくのがベストです。普通の氷はマイナス8度ぐらいですが、それだとグラスの中がすぐに外気温に追いついてしまいます。ところがマイナス20度の氷に、0度のトニックウォーターが入っていればマイナスに近い温度の液体を作れます。そうすることで僕が表現したいものをなるべく長い状態で、お客様の口の中にもっていけると考えました」ということである。
ここまでこだわりのレモンサワー、1番から4番が800円、5番が900円という値段にも顧客は納得して注文してくれるものと思われる。「素材を考えたらこの値段にせざるを得ませんでした。トニックウォーターも高品質のものを使っていますし、氷もマイナス20度にまで冷やしていますから、本音はもっと高くてもという思いです」と言う。
