新店『TOTOROU 浪漫』も坪月商48万円。「小さなハレの日」ニーズの追求で連続大ヒット
営業方針を切り替えたところ、売上が3倍に伸びた
冠婚葬祭ほど特別な日ではないが、友達の誕生日や祝い事、デートなどちょっとした特別な食事が小バレ(ささやかな「ハレの日」)のニーズ。そして、この「30歳の女性」をペルソナとし、「小バレニーズ」に焦点を絞ったのは『魚魚郎』を営業する中で徐々に固まってきたものだという。
音楽の道に進むため、椎名氏は22歳の時に上京したが、26歳でそこにきっぱりと見切りをつけ、飲食店の開業をめざして居酒屋やビストロで2年間修業した。2015年11月にビストロ『学芸大学 トトロ』をオープンして独立。ただ、「その時点で考えていたのは『仲間と一緒に格好いい店をつくりたい』ということくらい。ニーズを意識していなかったため、思うように売上も伸びませんでした」と椎名氏は当時を振り返る。
「ニーズに合った店をつくろう」と2017年9月にオープンしたのが『魚魚郎』だった。当初は大衆酒場のスタイルを採っており、売上は月商220万円ほどのプチヒット止まり。それが『30歳の女性』をペルソナとした『小バレのニーズ』の追求に営業方針を切り替えたことで、売上3倍増の大ヒット店に生まれ変わったのである。
「といっても、メニュー構成はほとんど変わりません。変えたのが盛りつけ。従来は味気ない白い器を主に使っていましたが、装飾を施した食器を商品によって使い分けるようにしたんです。ペルソナと同世代の女性スタッフにアドバイスを求め、その意見を採り入れたわけですが、これによってお客様の反応が明らかに変わりましたね」(椎名氏)
営業方針を切り替えた時期は2020年2月頃。間もなくコロナ禍に突入してしまったが、外食マーケットが回復してくるにつれて『魚魚郎』は売上を急上昇させ、大繁盛店の仲間入りを果たしたのだ。
『魚魚郎』と異なる空間デザインでプチサプライズを演出
その勢いを受けて出店に至ったのが『TOTOROU 浪漫』。店名に掲げられている浪漫とは「大正ロマン」を意味している。『魚魚郎』は和風の店づくりや和食を下地にしたメニューが売り。それを和洋折衷で表現したのが『TOTOROU 浪漫』だ。
客単価はいずれも4,250円で、主客層が20~30代の女性グループという点も共通しているが、店のイメージそのものは大きく異なる。
「『TOTOROU 浪漫』の内装はコンクリート打ちっぱなしの壁や床に白木のカウンターを組み合わせており、L字型カウンターの目の前にはクラフトビールと日本酒がずらりと並んだ大型の冷蔵ショーケースを設置しています。木目を基調とし、老舗感すら漂わせる渋い内装の『魚魚郎』とはまったく異なる空間デザインですが、『魚魚郎』をご存じのお客様の意表を突くこと、それもプチサプライズのひとつ」と言って椎名氏は笑う。
ワンコイン刺し盛りの単品原価率は実に150%
フードメニューにも小バレのニーズに応える仕掛けが幾重にも施されている。
『TOTOROU 浪漫』のフードメニューは定番37品と日替り5品をラインアップ。刺し盛り、土鍋ご飯、おでんが『魚魚郎』と共通するメニューの柱だが、中でも2店共通の看板メニューが「刺し盛り」(550円)だ。
ピラミッド型に積み重ねられた祝い升に、マグロ、マダイ、カンパチ、タコ、サーモンの刺身5種を盛り付け、さらにイクラも添えられており、その単品原価率は実に150%に達している。
「地産地消を売りにした店の刺身が高値だったのを見て、『看板メニューが高いのは変』だと感じ、ワンコイン価格にしました。それでも、導入当初の単品原価率は80%ほど。食材原価が高騰していますが、この点は妥協したくないと価格を堅持していたら原価率が上がってしまいました」と椎名氏は苦笑する。
『TOTOROU 浪漫』の名物メニューとして投入された「厚切り牛タンのロースト」(1,980円)も単品原価率が45%におよぶ目玉商品。土鍋ご飯の売れ筋である「しゃけとイクラの親子飯」(1,650円)はごはんを覆い隠すくらいにイクラをたっぷり盛り付けるなど、刺し盛り以外にもプチサプライズがフードメニューの随所に隠されている。

写真左から、「浪漫のポテサラ」(660円)、「カツオのジェノベーゼ和え」(938円)。『魚魚郎』でもポテトサラダや日替りメニューでカツオの料理を置く一方、『TOTOROU 浪漫』では洋のアレンジを加えている
