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創業6年で離職者はわずか2名。超人気バル『カルボ』の「人が辞めない店づくり」

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スタッフの笑顔が客を呼ぶ(写真提供:株式会社Visca)

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由利氏が実践する3つの施策

こうした基本的なコンセプトを実現するために由利氏が実践する人事、人材育成術の特徴は①技術の継承による成長の促進、②人件費の比率の高めの設定、③人ありきの拡張、の3点である。

①(技術の継承による成長の促進)は、スペインでの修業という得難い経験をスタッフに伝えるようにしている。

「どこかの店舗に集まって、『さあ研修』という堅苦しいものではありません。僕が現場に行ったり、(スタッフの仕事を見て)少し違うなと思ったら、その場で伝えたりしています。『僕がスペインで教わったことは、いくらでもその技術を持っていきなさい、それがスペイン料理がどんどん広まっていくことになるから』と言っています」

実際に由利氏がスペインで修業している時は、当時のスタッフは包み隠さず聞いたことに答えてくれたという。自身が教える立場になった時はそれを受け継ぎ、教わる立場のスタッフがそのことでノウハウや技術を高めれば、会社全体が実力を高めることになる。

そのためには従業員が何を求めているかを把握する必要がある。各店舗の責任者にはその点を確実に把握するように求めている。

「本人の希望に反する仕事を延々と続けさせるわけにはいきませんから、まず本人は何をしたいのかを把握するようにしています。仕事だけでなく、たとえば休みを取ることを大事に考えるスタッフがいれば、それも大事なことで、それが各社員の働くモチベーションに繋がります」

スペイン料理の定番“パエリア” (写真提供:株式会社Visca)

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②(人件費の比率の高めの設定)は単純に良い待遇が人の定着に繋がり、同社の場合は(みんなで稼いでみんなに分配)というモットーを実現することである。通常、飲食の世界では売上に対する人件費の比率は30%以下に抑えるが、同社では40%を超えている。「薄利多売ではありませんが売上が伸びるから可能になるというのはあります」と、高い人件費比率の理由を説明する。

飲食事業はどこもアルバイトの募集でさえ苦労するものであるが、同社の場合は、飲食店専門の求人サイト「求人飲食店ドットコム」だけで必要な人材を得られている。単純に高待遇という要素もあるとはいえ、そこに人を育てる、人の働きを正当に評価する会社という要素を応募者が読み取っているのかもしれない。

③(人ありきの拡張)が最も特徴的な部分。店舗を1つに留めておいては、売上の天井は固定され、人を増やすことはできず、そのことでより多くの収益を出すこともできない。人を定着させるには企業全体を成長させなければならず、そのためには拡大路線は避けられない。とはいえ、拡大ありきで闇雲に店舗展開をしても、責任者が運営するだけの経験、ノウハウを持たなければ運営が失敗して赤字を生み出すだけに終わりかねない。そのため、その人に合った店舗展開、業態を選んで出店する、人ありきの拡張路線が求められる。

「『こちらで箱(店舗)を作るから、君、やりなさい』ではなく、『君はどういう箱がやりたい?』というところから入って、よりよい箱にするためにはどうすればいいか、という作り方をします。箱があるからやるのではなく、箱ではなく人です」

2020年1月にオープンした学芸大学『囲炉裏バル カルボ』は、フレンチで研鑽を重ねた根津直樹シェフに声をかけてオープンしたもので、1号店の本格的なスペイン料理の『Pablo(パブロ)』とは異なる囲炉裏や薪火で調理した、スペインやイタリアなど各国の郷土料理と酒が楽しめるお店としたのは、まさに根津シェフに合った箱を用意したことに他ならない。福岡の店舗も同様に、気候や人がスペインに似ている福岡でオープンしたいという担当者がいて実現したものである。

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松田 隆

ライター: 松田 隆

青山学院大学大学院法務研究科卒業。ジャーナリスト。スポーツ新聞社に29年余在籍後にフリーランスに。「GPS捜査に関する最高裁大法廷判決の影響」、「台東区のハラール認証取得支援と政教分離問題」等(弁護士ドットコム)のほか、月刊『Voice』(PHP研究所)など雑誌媒体でも執筆。ニュース&オピニオンサイト「令和電子瓦版」を主宰:https://reiwa-kawaraban.com/