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名物は550円のオバアチャンバイキング! 80歳超えが牽引する吉祥寺『トーキングゴリラ&デブー』

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ランチバイキングで賑わう店内、高齢の女性も元気に働く

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貴重な戦力となる高齢女性

店舗のもう1つの特徴は「オバアチャンランチバイキング」の名に象徴される高齢の女性スタッフである。「高年齢の女性の職に対するノウハウを労働資源として利用しないのは、もったいない」(手塚氏)という考えからの起用となった。令和の時代はさておき、昭和に生まれ育った世代は女性が家事を担当するのは当たり前で、結婚後何十年も料理を作っている人がほとんど。つまり主婦のプロフェッショナルであり、安くて美味しい料理を何十年もつくってきた経験は、まさに550円のバイキングに求められる能力である。

メインのスタッフとして活躍するのは80歳代の3人。「ウチ(グループ内の会社)には年齢の高い人たちがいますから。平均年齢80歳の4人でバイキングを始める予定だったのですが、1人亡くなってしまい、3人でスタートしました。そこにグループから2人が手伝いに入っています。彼女たちのノウハウ、たとえば野菜を見る目などは若い人より遥かに上です。さらに、おからなど原価の安いメニューを考えて作ってくれます」と言う。

何より手塚氏を感動させたのは、高齢女性の仕事に対する真摯な姿勢である。最初は週に3日働いてくれればという案を出したが、本人たちは「週に5日やります」と言ってきかなかったという。「日本人のおばあちゃん、めちゃくちゃ律儀です。(仕事に対して)厳しくて。今、外国人労働者と一緒に働いていますが、日本人の生真面目さは外国人とは全然違います。信頼に値する生真面目さだと思います」と絶賛する。

手際よく作業するスタッフ

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現在の80歳代は1935年(昭和10)から1944年(昭和19)、終戦前の生まれ。東京が空襲で焼け野原になっていた時期に少女時代を過ごし、働き始めた頃は戦後の復興期から高度経済成長期にあたる。戦争が終わって19年で東京五輪(1964年)開催と、奇跡の復興を支えた世代と言っていい。「男女雇用機会均等法」もなければ「働き方改革」などの言葉が生まれる遥か前、組織に忠誠を誓い、豊かになるためにがむしゃらに働くことが美徳とされ、海外からエコノミックアニマル、ワーカホリックと揶揄されていた時代である。その時代を生きてきた人たちの仕事ぶりは、それがいいか悪いかは別にして、現代の若者とは根本的に異なる。

取材に訪れた時は厨房とホールで80歳代の女性が働いていた。黙々と料理を出し、食器を片付け、空いた席にお客を誘導する、その働きぶりからは現場の主軸として有効に機能しているのが見てとれる。

「同世代の男性とは違って仕事ではなく、家事をやってきた(現在、高齢の)女性の中に極めて日本的ないいものが残っているんだなというのを、やってみて感じました」と手塚氏も手放しで褒め称え、今後、高齢の女性をさらにスタッフとして迎え入れたいとしている。

少子高齢化が進む現代社会は、高齢者の就労が大きな社会的な課題となっており、マクドナルドがシニア世代を積極的に採用しているのはよく知られている。オバアチャンランチバイキングを支えているのはまさに高齢の女性スタッフであり、その社会的な意義は、もっともっと評価されて然るべきである。

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松田 隆

ライター: 松田 隆

青山学院大学大学院法務研究科卒業。ジャーナリスト。スポーツ新聞社に29年余在籍後にフリーランスに。「GPS捜査に関する最高裁大法廷判決の影響」、「台東区のハラール認証取得支援と政教分離問題」等(弁護士ドットコム)のほか、月刊『Voice』(PHP研究所)など雑誌媒体でも執筆。ニュース&オピニオンサイト「令和電子瓦版」を主宰:https://reiwa-kawaraban.com/