神楽坂の立ち飲み『ORI』が連日満席。ナチュラルワイン×小料理を囲む「一体感」が吸引力に
古民家の情緒を残した空間で、ワインでつながる賑わいを演出
築70年の古民家の雰囲気を活かしたいと、柱や梁などの躯体はそのまま残し、厨房は土間をイメージしている。壁は左官職人が手作業で仕立てた土壁で、古木とモルタルが融合した都会的な和の空間を作り上げた。また、立ち飲み店にしたいというのは初めから決めていたが、一直線のカウンターではなく、店内の真ん中に1枚板の大きなセンターテーブルを設置しているのもこだわりだ。厨房と客席の仕切りがなく、スタッフとお客がひとつのテーブルを囲みながらワインを楽しむことができ、その一体感がお客を惹きつける大きな吸引力となっている。
また、店の奥で存在感を放つのが、ウォークインのワインセラー。『エスタシオン』のワインセラーも兼ねており、国内外のナチュラルワイン約800本を保管している。立ち飲みでこれだけのナチュラルワインを揃える店は、なかなかお目にかかれないだろう。ワインの産地は、スペインや日本を厚めにしつつもこだわらず、世界各地から幅広く揃えており、グラスワインは約15種類を用意(1,000円~)。「気軽にナチュラルワインを楽しんでほしい」と、ワインリストは置かず、お客の好みや飲みたいワインなどを口頭で聞き、選んで提供するスタイルだ。
さらにドリンクは、クラフトビールや自家製のレモンサワー、日本酒、焼酎なども揃えており、それぞれにも野堀氏のこだわりが光る。たとえばクラフトビールは、山梨・甲州市「98WINEs」が手掛ける「98BEERs」や、伊勢「ひみつビール」など、ビール専門店でもあまり飲めないような銘柄も揃う。造り手からきちんと選んだ上質な酒を、立ち飲みで気軽に楽しめる点も、『ORI』の価値を高めている。
野堀氏自ら作る、遊び心溢れる料理も評判
立ち飲みのワインバーではあるが「ある程度しっかり料理も食べられる店にしたい」と、創業時より料理は野堀氏みずから手掛けており、料理の魅力も『ORI』が評判を得ている理由だ。「ワインに合う小料理」をコンセプトに、スペイン料理にこだわらず、日本のおばんざいをイメージした前菜の盛合せを中心に、日替わりで約10品を用意。料理はすべてエスタシオンで仕込み、『ORI』では盛り付けのみとすることで、オペレーションの負荷を和らげている。
「いまの時期だと、ごぼう炒めやかぼちゃサラダ、ゴーヤのマリネなど。スパイスをきかせたりはしますが、純粋なスペイン料理はオムレツくらいで、自由にやらせてもらっています」と野堀氏。近隣の人気パン店『パン・デ・フィロゾフ』に依頼しているオリジナルのカンパーニュや、『中村食糧』のパンが揃うのは、グルメ偏差値が高い神楽坂という街ならではの強みだろう。
ちなみに大々的に謳ってはいないが、『ORI』の器は、野堀氏が全国の作家からセレクトしたもの。『エスタシオン』でも使用している能登の珠洲焼の作家・山田睦美氏や、デンマーク・コペンハーゲンの『noma』の姉妹店『inua』や『noma京都』のカトラリーやお皿を制作したことでも知られる湯浅ロベルト淳氏などの器が使われている。何気なく作家の器に触れられる点も、お客の体験価値を高めている一因だろう。
