高円寺で月商750万円を売るスパイス居酒屋『この一杯のために。』が考える「10年続く店」
長期経営を見据え、「ジャンルレス」で「振れ幅」と「流動性」のある店づくりに
「スパイス」を軸にする『この一』だが、あくまで料理のジャンルを絞っていないところに注目したい。メニューに並ぶのは、炭焼きに飲茶、ピザ、トスターダス、カオマンガイなど、和食から中華、韓国、イタリアン、メキシカンにエスニックまで実にバラエティー豊かな品々だ。それぞれにスパイスやハーブでオリジナルアレンジをきかせつつ、ジャンルレスにラインナップする。既存の『酒場ニホレモ』では、「日本酒とレモンサワー」「イタリアン×スパニッシュ」など看板メニューを強く打ち出してきただけに正反対の戦略にも思えるが、どんな思惑があるのか。
理由は二つだ。一つは、経営面でのメリット。“10年続く店”を考えた時、「表現の方法をフレキシブルにしておくことの重要性」を感じたからだと柴崎氏は語った。コロナ禍を経験し、物価高騰やトレンドの移り変わりの早さを目の当たりにする中で、何かに特化すると、順調にいかなくなった時のリカバリーが難しいことを体感してきたという。店名やメニューはすぐに変えられたとしても、内装や厨房の改造となると多額の資金がかかる。だが店のコンセプトやそのアウトプットの仕方に振れ幅があれば、万が一何かが起きても流動的な対応が可能だ。
もう一つの理由は、柴崎氏が描く居酒屋像にあった。
「個人的な意見なのですが、“何でもある”って居酒屋の醍醐味の一つだと思うんです。特に普段使いするような居酒屋は、どんな気分の時に誰と来ても楽しめる気楽さが大事かなって」
ましてや『この一』があるのは、駅前も駅前。ウォークインのお客や、好みが違う複数人が仕事帰りに来店する機会が多いことを考えても、間口を広げるメリットが大きいのは確かだろう。
一方、その中でもあえて「スパイス」を掲げた訳を問うと、「“どんな店か”がイメージできないとお客さまの足は遠のく」と柴崎氏。情報があふれる今の時代だからこそ、「分からない」ことは巨大なマイナス要因だという。
「本当に何でもありだったら『この一』である必要がなくなってしまいます。ここに来たらどんな楽しみがあるのかは、ちゃんと伝えないと」
