月商500万円を売る代々木上原『でばやし』。高知出身の幼馴染が歩むサクセスストーリー
伝統の郷土料理“縛り”ではなく、産地の食材を輝かせて品ぞろえを拡充
食材は、さまざまな繋がりを頼りにできるだけ地元のものを調達する。「鰹のたたき」は、知人のつてで紹介してもらった有楽町にある高知県のアンテナショップ経由で現地の鮮魚店とコンタクトを取り、年中届くルートを確立。ドリンクの「自家製ジンジャーサワー」(660円)や薬味に使う高知県特産で知られる生姜は、田邊氏の後輩の農家、旬の野菜・果物も地元農家から仕入れるほか、塩、醤油、酢といった調味料はネット通販で購入。一方で送料の負担を軽減するため、近所のスーパー3軒を巡って、ナス、ミョウガなどは極力安い高知野菜を探すことも。その地道な努力もあり、メニュー全体の原価率は30%を切るという。
こうして各所から集めた地元食材を、基本的に創作料理に落とし込むのが『でばやし』流だ。意外な組み合わせでネーミングから想像できない味だと好評の「茄子と海老のはさみ揚げ」(750円)、和洋の風味がクセになる「四万十川の青さのりとゴルゴンゾーラのニョッキ-バゲット付-」(1,300円)などが代表例。高知県伝統の調味料・ぬたを刺身にかける郷土料理にひと手間加えた「真鯛ぬたカルパッチョ」(1,000円)など独創性が光る。
「郷土料理にこだわると、それしか作れなくなる。高知の素材を生かすやり方のほうが、いろいろなことができますから。事実、創業当時30種だったメニューを徐々に増やし、現在の約50種に。それに比例して売上も伸びました。メニューを増やすと何かしたら“当たる”んですよ。箸休めの『高知のちくわきゅうり』もその一つ。地元のちくわは穴が大きく、きゅうりを切らずに丸ごと一本入るんです。珍しいからSNSで拡散され、原価も高くないので優秀なアイテムですね」(中島氏)
成長へと導いた、『人』を目指して来てもらう店づくり
二人が経営で大切にしているのは、3つの要素のバランスだ。
「『料理』『人(接客)』『システム』、この3つのバランスが保てれば、飲食店は成功するんだろうなと思っています。あくまでバランスなので、どれか一つが欠けていても構いません。その分、ほかで補えれば。例えば、接客態度が横柄なラーメンの人気店があるじゃないですか。『人』の部分が弱点なんですけど、味が飛び抜けておいしければ繁盛します。それはそれでバランスが上手く取れているから。で、僕らの中で大切にしているのは『人』です」と言い切る中島氏。その理由を次のように続けた。
「レストランやビストロなどは、料理や雰囲気を目当てに来店されると思います。けれども、居酒屋はもうちょっと日常的なものであり、3つの要素の中では『人』を目当てに来る方がほかの業態よりも多い。うちの店に関しては、接客に力を入れたことで成長したのかなと思っています。やっぱり『人』は大事」
隣でうなずきながら話を聞く田邊氏。『でばやし』の誕生は、下北沢の居酒屋業態で10年近く腕を磨いた中島氏が、前職が教員の田邊氏を誘ったことがきっかけだ。当時、中島氏の頭の中には「二人で経営するほうが面白そう」というシンプルな期待と、実務的に田邊氏がホールに向いているという確信があった。「人柄がいいし、僕にないものを持っている。彼は絶対、お客さまに好かれると分かっていた」(中島氏)。迷わず、幼馴染に声を掛けたそう。
とはいえ、当の田邊氏は居酒屋業界未経験。最初は緊張もあり、ぎこちない接客も見受けられたとか。だが、中島氏からのアドバイスに、毎日のホール経験で少しずつ自分なりの解釈を加え、誰もが心地よいと思える接客へ昇華。それが「上原の街の人に響いたのかなと思う」と、中島氏の見立ては間違っていなかった。
