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グルメ激戦区でも週末は最大4回転! 学芸大学『有縁』の“大人”を虜にする居酒屋のつくり方

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大学卒業後も定期的に連絡を取り合っていたという親密な仲の2人

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編集のプロである石川氏とともに、思いを伝える店づくり

蝶野氏が独立前に描いていたのは、1~2人ですべてのお客の面倒が見られる、カウンター主体の店。とはいえ「自分以外の料理人がカウンター内にもう1人、というのはイメージがつかなかった」と蝶野氏は明かす。

「今の時代は、まずお店を知ってもらわないとお客さまに来てもらえません。お店のことや生産者さんのことを正しく、かっこよく、映像や言葉で伝えられる人が欲しいと思い、大学時代からの同級生である石川さんに声をかけました」

石川氏は東京から小豆島へ移住して7年間、醤油蔵でデザイン業務などを担当。東京へ戻ろうと考えていた折に蝶野氏から声がかかり、ともに店を立ち上げることになった。

「来店してくれた人を満足させることは僕の仕事なので、石川さんにはお店を知らない人に向けた施策をお願いしました」と蝶野氏。現在の石川氏の業務内容は、SNSの運営と、月1回の映像制作、新メニューや季節メニューの撮影など。加えて、営業中は店に立ち接客も担当しており、こうした発信が新規客の取り込みだけでなく、再来店にも大きく貢献していると蝶野氏は言う。

発信する内容については、絵コンテや企画書をもとに2人で話し合い決めるという(写真提供:有縁)

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「開業当初は、『有縁とは』をテーマに、何が売りの店なのか、どんなシチュエーションで使える店なのかをわかりやすく伝えることに注力しました。第2段階はリピーター戦略として、季節感のある映像や旬なトピックを盛り込むことを意識。クローズドな店なので、『中の人』にもスポットを当てるべく閉店後の蝶野さんの映像を出したところ、反応がよかったので今後はそうした内容も増やしていく予定です。日本酒の生産者さんについては、開業前の酒蔵行脚で撮りためた写真があるので、徐々に発信して若い人に興味をもってもらえるようにしたいです」(石川氏)

日本酒は「爽快」「しっとり」「濃淳」「熟成」の4項目をガイドラインとし、好みの酒を選びやすいようにしている

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王道の純米酒×小料理。当日コースも選べる自由度の高さも魅力に

コンセプトは「純米酒と小料理を楽しむ、大人の酒場」。日本酒は、蝶野氏が「王道の純米酒」と表現する、旨みの濃厚な純米酒を中心に、メニュー表に記載した30種に加え、季節の酒など常時約50種を用意。開業前に訪ねた全国の酒蔵を中心に揃えており、提供時に生産者のストーリーを交えて提供するほか、同じ銘柄で製造年や酒米の違いなどの飲み比べができるのも魅力としている。

1~2人客が多いため、すべて1/2合からの注文が可能(半合650~850円)。半合売りは注文がばらける分、手数が増えるうえに、量が少ないため燗をつける際に温度が上がりやすく管理の大変さも増すが、店主の目が届く小規模店だからこそ実現できる売り方だろう。

また、お客の視野に入るところに日本酒の冷蔵庫がないのも客席をカッコよく演出し非日常感を高めている理由の一つ。冷やからぬる燗、熱燗とお酒に適した幅広い温度帯で提供するほか、銘柄によっては開栓後、数日おいてから出すなど、専門性の高さも強みとなっている。

アラカルトは約30品。刺身は醬油以外の食べ方で個性を出しつつ、ササガレイの干物やエイヒレ炙りなどシンプルな肴も揃える。すべて1人前のポーションで提供

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同様に料理も、「気軽に楽しんでほしい」と、開業当初はアラカルトのみとしていたが、ゆっくりと楽しんでもらえるように開業後5日目に「おまかせ」(8品5,800円)も用意。ただし、気軽さや自由度は大事にすべく、コースは予約制ではなく、当日その場で選べるようにして、内容のリクエストも可能にしている。

「割烹というよりはもう少しくだけた感じ」で、若い人にも来てもらいやすいようなメニューをラインアップ。蝶野氏の出身地・北海道のカラーを入れた「鮭クリームコロッケ」と「羊焼売 大 成吉思汗仕立て」を店のアイコン的存在に。現在はおまかせの注文が7~8割を占め、客単価は8,000~9,000円で推移している。

「鮭クリームコロッケ」(1個550円)。焼いた鮭の風味がクリームソースと調和する(写真提供:有縁)

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笹木理恵

ライター: 笹木理恵

飲食業界専門誌の編集を経て独立。スイーツ・パンからフレンチ、ラーメンなどまで、食のあらゆるジャンルを担当。飲食専門誌を中心に、一般雑誌やWEB、書籍などで活動している。「All About」「Yahoo!ニュース個人」でも執筆中。 https://foodwriter-rie.com/