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「出勤3分前はナメてる?」SNSで物議の“タイミー事件”から学ぶ、飲食店の正しい労務管理

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2025年9月、ある飲食店店主による「タイミー(のワーカー)さんが出勤3分前に来たので帰らせた」という趣旨の投稿がX(旧Twitter)で物議を醸した。これに対し「労働基準法に違反するのでは?」などの指摘が相次ぎ、飲食業界における労務管理の曖昧さが浮き彫りとなった。

本記事では、この一件をきっかけに、法律上の労働時間とは何かを再確認し、飲食店が直面しやすい法的リスクについて解説する。

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物議を醸した“タイミー事件”とは

勤務開始時刻の3分前に到着した「タイミー」のスポットワーカーに対し、「ナメている」として一方的に業務をキャンセルした飲食店店主の投稿がSNS上で大きな議論を呼んだ。SNSでは「準備時間も勤務時間では?」「法律に違反している」との指摘が殺到。飲食店の労務管理のあり方に注目が集まっている。

飲食業界では、制服への着替えや朝礼などを勤務開始時刻前に行うことが慣例となっている店も少なくないだろう。しかし、法律の観点から見れば、業務に必要な準備時間は「使用者の指揮命令下」にある限り、労働時間として扱われるのが原則だ。

法律上の労働時間とは?着替えや朝礼は含まれるのか

労働基準法における「労働時間」とは、判例上、労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間を指す。厚生労働省のガイドラインによると、実際に業務に従事している時間だけでなく、使用者の指示による待機時間や、業務遂行のために義務付けられている準備時間も労働時間に含まれる。

つまり、制服への着替えや朝礼、開店前の清掃・仕込みといった時間は、使用者に義務付けられていれば「業務のための準備行為」とみなされ、労働時間に含まれる可能性が高いといえる。

今回の一件では、店主が準備時間を労働時間と認識していなかった可能性が考えられる。しかし法律上は、例えば開店準備のために所定の時刻より早く出勤するよう指示するのであれば、その時間も労働時間として管理し、給与を支払わなければならない。

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見過ごされた「準備時間」がもたらす3つの経営リスク

準備時間を労働時間と認識しない曖昧な労務管理は、店を経営する上でさまざまなリスクを引き起こす可能性がある。その筆頭に挙げられるのが「未払い賃金」の問題だ。

未払い賃金が発生した場合、企業は過去3年分の賃金を遡って支払う義務が生じる。例えば、時給1,200円のスタッフが毎日15分の準備時間を賃金未払いのまま2年間勤務した場合、単純計算で15万円(時給1,200円 × 0.25時間 × 250日勤務 × 2年)にもなる。これに加え、遅延損害金などの支払いを命じられる可能性もある。

また今回の一件のようにSNSで情報が拡散されると、たとえ法的な問題に発展しなくても「ブラック体質の店」というネガティブなイメージが定着するおそれがある。そうなれば採用活動や店のブランドイメージに大きな悪影響が及ぶだろう。さらに、労働基準監督署からの是正勧告や指導の対象となれば、店や企業の信用失墜にも繋がりかねない。

事実、過去には飲食大手の企業が「着替え時間を労働時間として扱わない」として賃金を支払わなかった結果、労働基準監督署から是正勧告を受けた事例もある。

スタッフが安心して働き、お客から選ばれる店を目指すには、適切な労務管理が欠かせない。労働時間の管理を徹底し、準備時間も含めて正しく賃金を支払う姿勢が重要だ。今回のSNS上での一件を契機に、自店の労務管理を改めて見直し、持続可能な経営につなげてほしい。

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岩崎奈々

ライター: 岩崎奈々

食と旅を愛するフリーライター。広告代理店での営業を経て独立し、現在は旅行やSDGs関連のメディアにて執筆・編集を担当。国内外を巡り、現地の食文化に触れるのが楽しみ。 https://note.com/m_i_t_o/n/n5f9b3414513c