月商1,000万円超えの門前仲町『宿酒 きんきん』。客単価倍増させた2つの戦略【連載:居酒屋の輪】
コロナ禍の逆境をバネに。低単価店で培ったノウハウを「高付加価値」へ昇華
現在でこそ高単価店の運営を成功させている坂本さんだが、そのキャリアの原点はバーテンダーであり、独立当初は苦難の連続だった。2019年7月、業務委託でバー2店舗と居酒屋1店舗の運営をスタートさせた直後、新型コロナウイルスの感染拡大が直撃。バー業態は壊滅的な打撃を受けた。しかし、坂本さんは立ち止まらなかった。
「生き残るためには、業態を変えるしかない」。そう決断し、バーをたたみ、立ち飲み業態へシフト。2021年にはM&Aで『祭酒場 斎藤商店』を取得した。当時の月商は200〜300万円程度。街から灯りが消え、閉店ラッシュが続く中、坂本さんは休業要請の隙間を縫って営業を続け、「ここだけ開いている」という状況を逆手に取って集客。一気に月商600万円まで引き上げた。
その後、2023年に同店を『坂本商店』としてリニューアル。現在までに月商1,400万円、客単価3,500円の繁盛店へと育て上げた。さらに同年年末には『富岡一丁目の夕陽』をオープンさせ、こちらも客単価5,000円、月商600万円を記録。立て続けにヒットを飛ばしてきた。
多くの飲食店が、コロナ後のコスト高騰を受けて「高単価路線」へのシフトを模索した。しかし、単に価格を上げただけで、中身が伴わずに失敗するケースも後を絶たない。なぜ坂本さんは成功できたのか。それは、低単価店であっても「一流のマインド」を持ち込んでいたからだ。
「例えば『坂本商店』は客単価3,500円の大衆店ですが、そこでも高い体験価値を意識して、星付き店の経験者をスポットで招き、マインドを醸成しています。安かろう悪かろうでは生き残れません。上質を知った上で、それを如何にして3,500円の大衆酒場に落とし込むのか。競合店に勝ち抜くためには、圧倒的なクオリティが必要なのです」
事実、『坂本商店』でも店舗のブラッシュアップは続く。FL比率(食材原価+人件費)は50%に抑えたまま、顧客体験の質を高めることで、同価格帯の競合店との差別化に成功している。
「中途半端な妥協を埋めていく作業」こそが重要だと坂本さんは語る。エアコンの吹き出し口は見えていていいのか、テーブルの質感はこれでいいのか。細部へのこだわりを突き詰める姿勢は、客単価に関わらず共通する同社の強みだ。
目指すは「外食企業」からの脱却。レストランビジネスを“コンテンツ産業”へ
門前仲町で確固たる地位を築きつつあるUPSTART TOKYOだが、坂本さんの視線はさらに先を見据えている。それは、従来の「外食企業」の枠組みを超えることだ。
「一般的な外食ビジネスは、足し算の世界です。『席数×客単価×回転数』で売上の上限が決まってしまう。店舗を増やせば売上は上がりますが、投資回収のリスクも増える。何より、それでは従業員の給料にも限界が来てしまいます」
坂本さんが掲げる目標は「年商10億円、経常利益3億円」。これを達成するために必要なのが、飲食店の「コンテンツ化」だ。
「レストランビジネスは、実はコンテンツビジネスなんです。店舗という箱で完結するのではなく、そこで生まれるストーリーや体験をコンテンツとして発信していく。ブランド力を高めてフランチャイズやライセンス展開を行う。さらに、スタッフ一人ひとりがSNSで発信力を持ち、個々がメディアとなってファンを獲得する。そうやって『掛け算』でマネタイズできる企業を作りたい」
従業員がただの「労働力」ではなく、自らのファンを持つ「インフルエンサー」として活躍する未来。それが実現すれば、飲食業界の低賃金構造や、労働集約型のビジネスモデルそのものを変えることができるかもしれない。
「まずは一つひとつのブランドを圧倒的なものにする。そして、ここで働くことがステータスになるような会社にする。飲食に向き合う人間性、成長意欲。そういったものを高め続けられる組織でありたいですね」
大衆酒場の激戦区・門前仲町で「居酒屋以上の新しい和食業態」を作り出した『宿酒 きんきん』。その成功の裏には、緻密な計算と大胆な投資、そして「飲食業の未来」を変えようとする若き経営者の熱い野心が隠されていた。
『宿酒 きんきん』
住所/東京都江東区門前仲町2-9-5 あづまビル1F
電話番号/03-5621-9839
営業時間/17:00~23:00
定休日/無休
坪数・席数/約30坪・50席
https://www.instagram.com/shukushu_kinkin/












