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飲食店の大切な経営指標「坪売上」を上げるには? 福岡の繁盛店『炉端 百式』に聞く

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坪月商43.3万円を誇る『炉端 百式。客席は連日びっしり埋まる

飲食店の経営をはかる言葉として「坪月商」というものがある。1坪あたり月間でいくら売り上げているかを示す言葉だ。居酒屋の場合、一般的には坪月商が20万円程度までならば一般店、30万円を超えるとかなりの繁盛店と判断される。繁盛店は一般的な飲食店と何が違うのだろうか? 「安くておいしい店」のハードルが高い福岡県屈指の繁華街・天神で、坪売上43.3万円を誇る『炉端 百式』の讃井真一さんにお話を伺った。

坪売上43.3万円を誇るライブ感いっぱいの大衆居酒屋

2013年8月にオープンした『炉端 百式』。30坪55席の店内は、30~40代を中心とした会社員や、カップル、家族客で連日満席だ。店の中心はオープンキッチンとなっているため、カウンター席に座った客は、目の前で焼き上げる炉端焼きを楽しむことができる。フードメニューは13カテゴリー91品と品数が多いのが特徴だ。これだけの品数を揃えている意図は何だろうか?

「うちは大衆居酒屋なので、老若男女が訪れます。たとえば、カップルや、家族でごはんを食べに来る方でもしっかり食事することができ、そしてお酒を飲みに来る人も満足できるよう、メニューは幅広くそろえています。福岡は土地柄、『安くてうまい店』が多く、競合店も多い。コストパフォーマンスを高めて、お客様に満足していただけるよう努力しています」

食材は、長浜、姪浜で毎朝鮮魚を買い付けするほか、柳橋や糸島などを回って野菜の目利きも行っているそうだ。それ以外にも九州産を中心とした良質な食材を仕入れているため、原価率は40%と高い。仕入れに関してコストカットなどを意識している部分はあるだろうか?

「それはあまり意識していないですね。それよりも『お客様に楽しんでもらうこと』に重きを置いています。たとえば、目の前で食材を焼き上げることで、ライブ感を楽しんでもらっています。盛り付けにもこだわっていて、時には高い器を惜しみなく使います。そうすることで商品の付加価値も上がるかなという考えです」

看板メニューの『雲丹の和牛巻き』

見た目にこだわることで反響を感じたことはあるだろうか?

「宣伝として行っているのは、フェイスブックとインスタグラムだけなのですが、インスタグラムはとくに効果を感じますね。ぼくらが写真をアップする部分もありますけど、お客さんが投稿したり、拡散してくれたりすることも多いのです。そういう意味ではフォトジェニックというのは大事だと思います。とくに、看板メニューの『雲丹の和牛巻き』というのは、かなりの確率でみんなが写真を撮ってアップしてくれます。写真が『アレを食べにいこう』という来店動機になるんです。なので、いろんな意味での『見せ方』にはこだわっていますね」

メニューが多い分、廃棄ロスが増えるのではないだろうか?

「余りそうな食材はお通しに利用することもあります。原価率の高い鮮魚は、『みんなでがんばって売っていこうね』ということを決めて、本日のおすすめ品ということで、お客様にお声がけしたりしています。それと、曜日による客数の変動があまりないので、仕入れの量や内容を大幅に変える必要がないというのが強みです」

その日の客数が読めないと、どうしても食材が多すぎたり少なすぎたりして、廃棄や売り逃しなどのロスが出てしまう。『炉端 百式』は月曜日から日曜日まで、営業時間帯はほぼ満席状態をキープすることで、無駄を省くことに成功しているようだ。

ドリンクはセルフサービスでも飲める

ドリンクのセルフサービス方式によるコストカットの狙いはあるのか?

『炉端 百式』では、客が自分でお酒を注ぐと、一杯につき50円割引になるサービスを実施している。これはオペレーションの負担を軽くする目的があるのだろうか?

「実は、オペレーション的なことを考えるとやらないほうが楽なんです(笑)。システムについて説明するためにも人手がいるので、人件費的なメリットはほとんどないんですよ。ぼくらは楽しんでもらうこと、魅せることに徹底していて、ドリンクのセルフオーダーもその一環なんです。日本酒やビオワインが300本くらい入るワインセラーを用意しているのですが、そこでポップを見ながら選ぶ楽しみや、店内のどぶつけ(冷やしどころ)から水やソーダをとってハイボールをつくる面白さも味わってほしいと考えています」

大衆的な居酒屋にビオワインは珍しい組み合わせだ。管理も難しくコストがかさむのではないだろうか?

「ビオワインは普通のワインより、あっさりしているので和食に合うんですよね。健康志向の人からの人気もありますし、種類も豊富で面白いし、ぼくらの遊び心で置いているところもあります。お客さんに楽しんでもらいたいと同時に、ぼくらも好きなものを出したい。なのであまりコストのことは考えていないです」

遊び心ではじめたセルフサービスやビオワインは幅広い層に人気で、大衆居酒屋という業態には珍しく、女性比率も6割と高い。「土鍋で炊いたトリュフたまごかけごはん」など、ワインに合うおしゃれな料理が多いことも、女性客にファンの多い理由のひとつだ。

スタッフの方々。一番左が讃井真一さん

人件費率20%の秘密から見えてきた繁盛店の秘密

通常、人件費率は30%くらいが平均値だ。『炉端 百式』ではコスト比率で、人件費が20%に抑えられている。その理由は何だろうか?

「それは売上高比率でそうなっているんです。今はありがたいことに月商1300万とけっこう売り上げがあるので、コスト比率が20%くらいになっています。ただ、売り上げがあってもなくても、スタッフの数はそれなりに置かなくちゃいけないですよね。そこが人件費率に比例するんですよ。売り上げが倍になったからといって、スタッフの数が倍必要というわけではない。要はいかに無駄な時間を減らせるかということなんです。客の入りが安定しないと、暇なのに人を置かないといけない時間帯ができてしまいます。稼いでいないのに人件費が発生するので、当然人件費率は上がり、平均すると30%くらいになるということですね」

常に客数が安定しているからこそ、スタッフが最大限効率よく働くことができ、結果的に人件費の無駄を省くことにつながっていたのだ。

最後に、坪月商を上げるための秘訣を伺ってみた。

「うちは特別なことは何もしていないですよ。これまで話したような『ちょっとしたことの積み重ね』で今があるんです」と讃井さん。

日々小さな努力を積み重ねてリピーターを着実に増やしてきたからこそ、連日満席の今がある。そして結果として得られたのが、この驚異的な坪月商というわけだ。もちろん空席率を下げ、回転率を上げるよう工夫するのも坪月商を上げるためのひとつの方法である。しかし長い目でみれば、『炉端 百式』のように「お客様に楽しんでもらうこと」を第一に店づくりを行うことが、坪月商を上げる着実な道になるのかもしれない。

安くて旨い飲食店が多い福岡でも高い評価を得る繁盛店

『炉端 百式』
住所/福岡県福岡市中央区警固1-15-34 セントラルビル 1F
電話番号/092-791-8385
営業時間/18:00~25:00(L.O.24:00)
定休日/無休
席数/55
http://robata-100shiki.com/

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三原明日香

ライター: 三原明日香

編集プロダクションに勤務し、フリーライターとして10年以上活動。ふとしたことから労働基準法に興味を持ち、4年間社労士の勉強に打ち込む。2014年に試験に合格し、20年4月に開業社労士として独立した。下町の居酒屋で出されるモツ煮込みが好物。