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土用の丑の日にこそ考えたい。絶滅危惧種のウナギが、未だ大量に売られている理由

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世界中で絶滅が危惧されるウナギ

近年のウナギ市場はどうなっているのだろうか。水産庁の発表した資料によると、国産ウナギの漁獲量は長い間低水準で推移している。その不足を補っているのが輸入ウナギだ。昭和60年頃から、中国でヨーロッパウナギの養殖が盛んになり、供給量が一気に増加した。ピーク時の平成12年には約16万トンが供給され、値段も大幅に安くなった。しかし、平成19年のヨーロッパウナギがワシントン条約で国際取引を禁じたことで、輸入量が激減し、価格も高騰。多くの人が「ウナギが高くなった」と感じたのはこの頃だろう。近年の供給量は、ピーク時の4分の1程度の4万トンにまで落ち込んでいる。

水産庁資料「ウナギをめぐる状況と対策について」より抜粋

ニホンウナギも乱獲や河川環境の悪化が原因で、供給量が2013年に5トンにまで減少した。翌年には国際資源保護連合(IUCN)が、ニホンウナギを絶滅危惧種(レッドリスト)に指定。2016年の国内のシラスウナギの漁獲量も、1983年の31トンと比べると半分以下になっている。その流れに歯止めをかけるべく、現在は水産庁を中心にウナギ保全に向けた動きが進んでいる。しかし、顕著な効果は出ていないようだ。その理由を調べてみると意外なことがわかった。

国内の約半数のウナギが違法取引されたもの?

共同通信の集計によると、2016年11月から2017年4月にかけて、国内で採捕されたニホンウナギのシラスのうち、45.5%に密漁など違法取引の疑いがあるそうだ。回遊魚であるウナギを河口で捕獲する業者が後を絶たないことが原因と推測される。
また、2016年7月5日にはスペイン紙「エル・ムンド」で、密輸グループが絶滅危惧種であるヨーロッパウナギの稚魚を持ち出したというニュースも報じられた。ヨーロッパでは、今でも日本向けに大規模な密輸が横行しているという。

その状況を問題視したのか、2016年のワシントン条約国会議では、ニホンウナギがワシントン条約の規制対象に加えられることが検討されていた。規制されれば、これまでのようにウナギを食べることはできなくなってしまうため、市場には危機感が広がった。今回は見送られたが、2年後に行われる次回会議までに、ウナギ最大の消費国である日本が対策を示せるかどうかが注目されている。

Photo by iStock.com/narongcp

完全養殖のウナギへの挑戦

危機的なウナギ市場だが、希望もある。現在は養殖のウナギも天然のシラスから育てられているが、将来的には完全養殖に成功するかもしれない。現在、国立研究開発法人の水産研究・教育機構は、静岡県内で人工稚魚の飼育研究を進めている。これまでは、養殖したウナギはすべて雄に成長していたが、半数をメス化して人工授精し、稚魚を誕生させるプロセスに成功した。孵化してから稚魚になるまでの生存率が低いため、大量生産するレベルには達していないが、環境庁は2020年までに実用化したいと話している。

もちろん、完全養殖への道が見えたといっても、消費者の中には「天然のウナギも食べたい」という方も多いだろう。冒頭に紹介した『高瀬』のように、一人ひとりが限りある天然の資源に配慮することが、日本の伝統的なウナギの食文化を守ることにつながるのかもしれない。

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三原明日香

ライター: 三原明日香

編集プロダクションに勤務し、フリーライターとして10年以上活動。ふとしたことから労働基準法に興味を持ち、4年間社労士の勉強に打ち込む。2014年に試験に合格し、20年4月に開業社労士として独立した。下町の居酒屋で出されるモツ煮込みが好物。