輸入牛肉に「セーフガード」発動、アメリカ産の冷凍牛肉が実質値上げへ。飲食店への影響は?

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日本政府は、今年7月下旬、冷凍牛肉を対象とするセーフガード発動を発表した。セーフガードとは、冷凍牛肉の輸入量が規定量より超過した場合に、対象牛肉(豪州産を除く)にかかる関税を引き上げる制度のこと。
日本の輸入牛肉はオーストラリアとアメリカの二国で9割を占めており、値上げの影響を受けるのは、アメリカ産冷凍牛肉がほとんど。セーフガードは輸入量に応じて自動的に発動するもので、すでに8月1日から関税の引き上げが始まっている。これにより冷凍牛肉を多く使用する飲食店に「食材費高騰」などの影響が出るのではないかと懸念されているのだ。
牛肉の輸入状況
日本で流通する牛肉の6割は海外からの輸入牛肉だ。そのうち、最も多いのはオーストラリア産で全体の53%を占める。次いでアメリカ産が多く、全体の39%。この二国のみで、全輸入量の9割を占めている。
これには関税がかかるわけだが、様々な貿易協定の影響で、関税は一律ではない。
現状、オーストラリアとは経済連携協定(EPA)が結ばれており、関税は27.2%から段階的に19.5%まで下がる。一方、アメリカからの輸入牛肉には一律38.5%の関税がかかっている。今回は、アメリカ産を多く含む冷凍牛肉全般がセーフガードの対象となった。日本はアメリカから実に9万トンの冷凍牛肉を輸入している。

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そもそもセーフガードとは?
セーフガードとは、緊急輸入制限全般のことを指す。世界貿易機関(WTO)に定められた制度で、輸入量が想定以上に増えた場合、一時的に関税を引き上げたり数量を制限するものだ。貿易が国内産業に大きな損害を与えるのを防ぐ効果がある。
1995年発効のウルグアイ・ラウンドにて、牛肉を含む一部品目では煩雑な段取りを踏まずセーフガードを発動できる、簡易手続きを認めた。今回の発動が突然のように思われるのは、このためである。
■セーフガード内容とその背景
今回のセーフガード発動の背景には、オーストラリアの干ばつによりオーストラリア産牛肉が高値となり、その他の国からの牛肉輸入量が増えたことがあると言われる。冷凍牛肉の輸入量が前年比124.8%まで増え、セーフガードの発動要件「前年度比117%」を超えた。
セーフガードが発動されると、豪州以外の国からの冷凍牛肉にかかる関税が11.5%アップし、米国産牛肉については8月1日より50%の関税がかけられる。ちなみにセーフガードの発動は14年ぶり。前回は冷蔵肉が対象で、2003年8月から7ヶ月間であった。今回の措置は2018年3月末に解除される。
■米国の反応と日本の姿勢
今回のセーフガードの発動について、日本政府から公式な発表があったのは7月末のことだ。これに対し、アメリカは強く反発しており、二国間の自由貿易協定(FTA)の締結を急ぐ可能性もある。
じつは、予定どおりアメリカが環太平洋経済連携協定(TPP)に参加していれば、2016年12月の発効時に今回の措置は廃止されるはずだった。同様に、豪州の牛肉がセーフガードの影響を受けないのは、協定に守られているためだ。そのため、日本政府としては「アメリカの自業自得、困るならTPPに戻れば良い」とのスタンスを取っている。

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飲食店への影響は?
今回の実質値上げで、細切れ肉を使っている牛丼やハンバーグのチェーン店、またファミリーレストランへの影響が特に大きいとみられる。また飲食店以外にも、レトルトカレーなど加工食品会社への影響も必至だ。
一方、ステーキなどを提供する業態の場合は冷蔵牛肉を主に取り扱っていることが多く、現在の時点での影響は限定的だ。しかし、米国産冷凍牛肉の値上げが長引くことにより、豪州産の肉や冷蔵牛肉、また豚肉などにも影響が及ぶことが容易に考えられ、静観はできない状態だ。
セーフガードの内容は適切か?
今回、このセーフガードの内容が果たして今の時代にあっているかどうかが、議論すべきテーマとして上がっている。特に、ウルグアイ・ラウンドで決められた簡易発効措置については、見直しが必要であるとの意見が強い。
1995年当時と今とでは、農家あたりの肉用牛飼育頭数は3倍にも増えている。つまり国産牛肉の国際的な競争力は高まってきていると言える。また、高価な国産牛肉と安価な外国産牛肉とはそもそもの市場ニーズが異なり、輸入が増えても国内農家へのダメージは限定的とされる。そのため、制度の時代錯誤感は否めない。
畜産農家や飲食店をはじめとした国内の事情、そしてアメリカなどの輸入国の事情など、あらゆる側面を考慮しながら最適な制度が施行・運用されることを願うばかりだ。
