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鳥貴族はじめ、大手飲食企業の値上げ相次ぐ。悩む個人店「利益を出してこそ店が継続」

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Photo by iStock.com/unce

人手不足による人件費の高騰、食材も値上がり?

外食業界が値上げに踏み切っているのは改正酒税法だけが原因ではない。前出の大倉社長は人件費の高騰、食材の値上がりもその要因として挙げている。人件費の高騰は、特に首都圏で顕著な人手不足にその遠因を求めることができる。2017年6月の東京都の飲食調理業の有効求人倍率は5.79、接客業では7.58という、極端な売り手市場。1人に対して求職件数が5件から7件ある状況では、人件費を上昇させなければ継続的な雇用を確保できない。

一方で、食材の高騰についてはどうか。農林水産省が発表した「食品価格動向調査」によると、鶏卵は2012年9月時点では1パック(10個入り)183円だったのに対し、2017年9月は224円。国産牛肉は2012年9月時点では100gあたり637円だったのに対し、2017年9月は784円。その他、野菜でも同様に値上がりしている品目がみられた。

こうした食材価格の高騰について、前出のAさんはこう分析する。「鳥の値段はそれほど変わっていないと感じています。安定して供給されますから、市場価格も年間を通じてそれほど変わりません。逆に野菜は相場があってないようなもので、季節やマーケットの状況で乱高下します。ウチがお通しに使うみず菜は安い時は1パック80円ぐらい。お通しにすると8人分取れます。それが一番高い時期は300円ぐらいになります。それを一々価格に転嫁できません。だから年間トータルで計算するわけです。そういう視点から見て、食材が全体的に値上がりしているということまでは感じません」。

このため、Aさんの店舗では食事メニューについては値上げしていない。また、年間契約という手法で価格の安定を図っている点も見逃せない。「ウチの場合、看板商品のレモンサワーに使うレモンは、年間契約をしています。1年を通じて一定の値段で買うわけで、そうなると安い時期に少々高く仕入れても、高い時期に安く仕入れられます。売る方もその方が確実に計算できます」と、価格維持に向けての努力を口にする。

一方、Bさんの店舗は今秋、値上げをした。「全体的に一品物を中心に値上げしました。お店で扱う食材、特に葉物が上がって仕入額が上昇しました。野菜の値段の上下をすぐに価格に反映させるわけではないですけど、もう上げないと厳しかったので」と言う。さらに8月に雨が多かったせいで繁忙期に利益が見込めなかったという事情も重なった。今回の『鳥貴族』の値上げを聞き「上げるなら年末に向けてのこの時期しかないのだろうと思いました。そういうのは店を経営していると、理解できる気がします」と言う。

Photo by iStock.com/Wyco

値上げの決断「利益を出してこそ店が継続できる」

個人経営でも、大手企業でも、値上げはリスクを伴う。少しでも安く、いい物を消費者に提供することで顧客の満足度を高めるのはどの店舗も同じだろう。しかし、それによって利益が圧縮されれば最終的には企業の存続という部分につながる。

Aさんは飲食店の値上げの本質とも言うべき性質をこう表現した。「商売というものは1円2円を積み重ねていくもので、お金に敏感でないとやっていけません。そして長く店をやろうと思ったら、できるだけ原価の値上がりを価格に転嫁させないように緻密に考えて料金を設定する必要があります。ただし、利益を出してこそ店が継続できるのです。それが大前提であることを忘れてはいけません」。

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松田 隆

ライター: 松田 隆

青山学院大学大学院法務研究科卒業。ジャーナリスト。スポーツ新聞社に29年余在籍後にフリーランスに。「GPS捜査に関する最高裁大法廷判決の影響」、「台東区のハラール認証取得支援と政教分離問題」等(弁護士ドットコム)のほか、月刊『Voice』(PHP研究所)など雑誌媒体でも執筆。ニュース&オピニオンサイト「令和電子瓦版」を主宰:https://reiwa-kawaraban.com/